太平洋Xポイント

太平洋Xポイント：手塚治虫初期作品の魅力

手塚治虫による漫画作品『太平洋Xポイント』は、1953年、秋田書店発行の『少年少女冒険王』1月号の付録として発表されました。当初は『太平洋X點』という題名でしたが、後に『太平洋の火柱』を経て現在の題名に落ち着きました。1週間という驚異的なスピードで描き上げられたという逸話は、その迫力ある作風を物語っています。

物語は、泥棒の地下鉄サム一味がコスモポリタン国の研究所から大金を奪うところから始まります。それから15年後、ナーゼンコップ博士が開発した新型爆弾「空気爆弾」の実験が、太平洋上のアナタハン島（作中ではコナタハン島として登場）を舞台に計画されます。この空気爆弾は、地球上の全ての空気を爆発させる可能性を秘めた危険な兵器でした。

空気爆弾の実験に反対するデモが街を席巻する中、元泥棒仲間のマックスがサムのもとを訪れ、再び危険な仕事に巻き込まれます。サムの息子エリックは、父が泥棒だったことを知り衝撃を受けますが、サムは空気爆弾の実験を阻止しようと決意します。

サムはナーゼンコップ博士の誘拐を計画しますが、博士の屋敷では博士と娘ノーマが激しい口論を繰り広げており、既に空気爆弾はアナタハン島に運ばれてしまっていました。博士は拳銃自殺を図り、サムは屋敷から一人逃げ出します。

その後、サムとエリックはアナタハン島に潜入。島民に扮して、爆弾を搭載した船の図面を入手することに成功します。実はこの島民の少女は、ナーゼンコップ博士の娘ノーマの変装でした。サムとノーマは協力して、船に仕掛けられた時限爆弾を起爆させ、空気爆弾の実験を阻止しますが、サムは銃撃を受け、命を落とします。

この作品は、単なる冒険活劇にとどまりません。当時報道されていた「アナタハンの女王事件」を背景に、人間ドラマ、社会問題、そして戦争の恐ろしさを巧みに織り交ぜています。「空気爆弾」は、原水爆の脅威を予見した作品であるという解釈も存在します。

手塚治虫の代表的なキャラクターであるヒゲオヤジが、本作では泥棒という異色の役どころを演じていることも特徴です。宮崎駿監督は、子供の頃この作品を特に好きだったと語っており、小さな時限爆弾で戦艦が沈む描写を非現実的ながらも高く評価しています。

様々な解釈が可能な奥深さを持つ『太平洋Xポイント』。単行本化の際にラストシーンが変更されたり、複数の出版社から再版されたりしていることからも、この作品がいかに多くの読者に愛され、語り継がれてきたかが分かります。復刻版も発売されており、現在でもその魅力を体感することができます。

登場人物

地下鉄サム（サム・ユードォ）： 泥棒一味のリーダー。ヒゲオヤジが演じている。
エリック： サムの息子。正義感が強い。
マックス・テット： 泥棒一味の一人。
クラック・ウルフ： 泥棒一味の一人。
ナーゼンコップ博士： 空気爆弾の開発者。
ノーマ： ナーゼンコップ博士の娘。

書籍情報

この作品は、様々なアンソロジーに収録されています。単行本としては、講談社の手塚治虫漫画全集、小学館の叢書など、複数の出版社から出版されています。また、2013年には秋田書店から復刻版が発売されました。これらの書籍情報から、この作品が長年にわたって読まれ続けてきたことがわかります。

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