太陽圏電流シート

太陽圏電流シート：太陽系を貫く巨大な電流シート

太陽圏電流シート (Heliospheric Current Sheet, HCS) は、太陽の赤道面付近に広がる、巨大な電流シートです。太陽の磁極が北から南へ、あるいは南から北へと変わる境界領域であり、太陽系空間の磁気構造を理解する上で極めて重要な役割を果たしています。

バレリーナのスカートのような形状

HCS の最も顕著な特徴は、その形状です。太陽の自転に伴い、太陽磁場はねじれてパーカー・スパイラルと呼ばれる螺旋状の構造を形成します。この螺旋状の磁場は、電流シートによって二分割され、まるでバレリーナが踊っているような、波打つ螺旋状の形状になります。この形状は、太陽風の影響や太陽の回転運動によって生み出されると考えられています。回転しながら散水するホースに例えられ、「ガーデンスプリンクラー効果」や「ガーデンホース効果」とも呼ばれるこの現象は、太陽風という「水の流れ」が太陽から放射状に噴出することによって生み出される美しい構造を作り出しています。

強力な磁場と電流

HCS は、太陽とともに約27日周期で回転しており、その間、地球の磁気圏とも相互作用します。HCS 内には、比較的弱いながらも広大な領域にわたって電流が流れており、その強さは約3×10⁹アンペアにも達します。これは、オーロラ現象の原因となるビルケランド電流よりもはるかに大きな電流です。太陽近傍では、シートの回転電流によって励起される磁場は、5×10⁻⁶テスラ程度の強さを持ちます。これは、太陽表面の磁場（約10⁻⁴テスラ）に比べるとはるかに弱いですが、単純な双極子磁場よりも地球軌道付近では100倍も強い磁場となります。

HCS の電流と太陽風の関係

HCS 内の電流は、太陽の極地方から外向きに流れる電流と、内向きに流れる放射状の電流が近接して流れています。これらの電流は、太陽風と密接に関連しており、太陽風の流れや加速機構に影響を与えています。HCS の電流密度は場所によって異なり、最も高い部分でも10⁻¹⁰ A/m²程度と、比較的低いです。しかし、その広大な面積を考えると、全体の電流量は無視できない規模になります。

HCS の発見と研究の歴史

HCS は、1965年にジョン・ウィルコックスとノーマン・ネスによって発見されました。その後の研究によって、HCS が太陽系空間の磁場構造や太陽風の挙動に大きな影響を与えていることが明らかになっています。近年では、マックノート彗星 (C/2006 P1) のダストテイルの縞模様が、HCS の影響を受けたものであることが確認され、HCS の存在が間接的に確認されました。銀河系にも同様の構造が存在する可能性が示唆されており、宇宙における大規模構造の理解に重要な役割を果たす、宇宙規模の現象であると考えられています。

まとめ

太陽圏電流シートは、太陽系空間における磁場と電流の複雑な相互作用によって形成される、巨大でダイナミックな構造です。そのバレリーナのスカートのような独特の形状や、地球の磁気圏に及ぼす影響など、多くの謎に包まれたままですが、太陽系空間の理解を深める上で重要な研究対象であり続けています。今後の研究によって、太陽風や宇宙天気予報の精度向上にもつながることが期待されています。

もう一度検索