奇術師 (小説)

奇術師（The Prestige）

クリストファー・プリーストによる小説『奇術師』（原題: The Prestige）は、1995年にジェイムズ・テイト・ブラック記念賞（小説部門）、1996年に世界幻想文学大賞を受賞した作品です。2006年には『プレステージ』として映画化もされています。

あらすじ

物語は、アンドルーという男性が、先祖である奇術師アルフレッド・ボーデンの著書を受け取るところから始まります。幼い頃に養子となったアンドルーは、養父母を実の家族として慕っており、曾祖父か曾々祖父にあたるアルフレッド・ボーデンの話に特別な関心はありませんでした。彼がボーデン家の情報として求めていたのは、記録上存在しない双子の兄弟のことでした。

アンドルーは、自身が一卵性双生児であると確信しており、双子の片割れとの間には感覚的な繋がりを感じていました。しかし、相手の居場所を知ることはできずにいました。

ボーデンの本を送ってきた女性・ケイトの屋敷を訪れたアンドルーは、双子の存在について尋ねられます。そして、ケイトの先祖ルパート・エンジャと、アルフレッド・ボーデンの間に起こった出来事について聞かされます。アンドルーたち双子の現状は、百年前に起こった二人の確執が原因であり、ケイトもまた自身の抱える謎の真相を突き止めるために、二人の奇術師の過去を調べているのだと言います。

アルフレッド・ボーデンの回想録とルパート・エンジャの日記を通して、互いが得意とする奇術「瞬間移動」の秘密を探り合った二人の確執、その結末、そしてアンドルーの双子に関する謎が徐々に明らかになっていきます。

小説の特徴

小説『奇術師』は、単なる奇術のトリックを巡る争いではなく、人間の欲望、嫉妬、そして狂気が生み出す悲劇を描いています。アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャ、二人の奇術師の視点から語られる物語は、それぞれの思惑や感情が複雑に絡み合い、読者を深く引き込んでいきます。

また、作中には「瞬間移動」という奇術のトリックが登場しますが、その裏に隠された秘密は、単なる技術的な問題に留まらず、人間の存在そのものに関わる深いテーマを提起しています。双子の存在、記憶の曖昧さ、現実と虚構の境界線など、様々な要素が複雑に絡み合い、読者に多くの問いを投げかけます。

映画版との違い

映画版『プレステージ』は、小説『奇術師』を原作としていますが、いくつかの点で変更が加えられています。例えば、映画版では、ボーデンとエンジャの出会いや確執に至る経緯が異なっています。また、アンドルーとケイトは登場せず、物語の結末も大きく異なっています。

映画版は、映像的な表現を駆使し、奇術の世界をより魅力的に描き出しています。しかし、小説版が持つ複雑な人間関係や深いテーマは、一部省略されています。小説版と映画版、それぞれの魅力を味わってみるのも良いでしょう。

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