奇跡の人 (1962年の映画)

奇跡の人（1962年の映画）

1962年に公開されたアメリカ合衆国の伝記映画。アーサー・ペンが監督を務め、アン・バンクロフトがアン・サリヴァンを、パティ・デュークがヘレン・ケラーを演じた。この作品は、ウィリアム・ギブスンが1959年に発表した同名の舞台劇を原作としており、ギブスン自身が脚本を手がけた。目が見えず、耳が聞こえず、話すこともできない三重苦を背負った少女ヘレン・ケラーと、彼女に言葉と世界を教えようと奮闘した家庭教師アン・サリヴァンの、困難に満ちた、しかし希望に溢れる教育の軌跡を描き出す。

ストーリー

アラバマ州に暮らすケラー家では、幼い頃の病が原因で視力と聴力を失い、言葉も話せなくなった娘ヘレン・ケラーとの意思疎通に深く悩んでいた。甘やかされて育ったヘレンは、自身の要求が通らないと激しい癇癪を起こし、手に負えない状態となっていた。藁にもすがる思いのケラー夫妻は、視覚障害を持つ子供たちが学ぶ学院に助けを求め、その依頼に応えて派遣されてきたのが、若き家庭教師アン・サリヴァンであった。

ケラー家に到着したサリヴァンは、早速ヘレンとの対面を果たす。彼女は持参した人形をヘレンに渡し、その手に自身の指でアルファベットの指文字を刻む。「D・O・L・L」。最初はただの模倣に過ぎなかったが、ヘレンが指の動きを真似したことにサリヴァンは小さな希望を見出し、根気強く「CAKE」などの単語を教え始める。しかし、教育の厳しさの必要性を痛感させられたのは、その直後にヘレンから顔を叩かれた出来事だった。サリヴァンは、言葉だけでなく善悪の区別、そして規律を教えることが不可欠だと悟る。

その日の夕食の席で、サリヴァンは衝撃的な光景を目にする。ヘレンはテーブルの周りを歩き回り、家族の皿から無造作に食べ物をつまみ食いするという野放しな振る舞いをしていたのだ。ヘレンの無作法な食事作法を巡ってケラー夫妻と口論になったサリヴァンは、家族を食堂から出し、ヘレンと二人きりになることを決意する。最低限の食事のマナーを教え込もうとするサリヴァンに対し、ヘレンは猛烈に抵抗し、暴れ回る。サリヴァンも一歩も引かず、力ずくでヘレンを椅子に座らせようとする。まるで嵐のような壮絶な攻防は数時間にも及び、ようやくヘレンに食事の仕方を学ばせることに成功する。

その夜、サリヴァンの強硬なやり方を巡ってケラー夫妻は議論する。父アーサーはサリヴァンを解雇しようと考えるが、母ケイトは彼女の秘めた力とヘレンへの愛情を感じ取り、夫を説得する。ヘレンの手に負えない行動の原因が、夫妻の哀れみと過度な保護にあることに気づいたサリヴァンは、夫妻の目が行き届く環境では真の教育は不可能だと訴える。夫妻は「ヘレンに優しく接すること」「期限は2週間」という条件付きで、サリヴァンがケラー家の離れでヘレンと二人だけで暮らすことを許可する。

隔離された離れで、サリヴァンはヘレンに日常生活の様々な動作やマナーを教えながら、触れるあらゆる物の名前を指文字で教え続ける。サリヴァンは、「すべての物には名前があり、ヘレンがそれを理解すれば閉ざされた世界が無限に広がるのに」と苦悩する。しかし、ヘレンは指文字をただ猿まねするだけで、言葉とその意味を結びつけられないまま、約束の2週間が過ぎ去ってしまう。失意の中、サリヴァンはヘレンを連れて母屋に戻る。その直後、何気ない出来事がきっかけで、ヘレンは井戸端で触れた「水（WATER）」という指文字が、目の前で起きている出来事、つまり冷たい水そのものを指していることを劇的に理解する。言葉の意味を悟ったヘレンは、次々と物の名前を尋ねるようになり、サリヴァンとのこれまでの努力が報われる瞬間を迎える。二人の間にようやく通じ合った言葉は、ケラー家全体を感動と涙で包み込んだ。

登場人物

アン・サリヴァン: ヘレンの家庭教師。ボストンの学院から派遣された視覚障害者だが、学業は優秀。強い信念と愛情を持つ一方、頑固で協調性に欠ける一面もある。過去に弟ジェームズと過ごした辛い経験が、彼女の教育観に影響を与えている。
ヘレン・ケラー: 幼少期に病により視力・聴力・発話能力を失った少女。感情表現は豊かだが、具体的な意思疎通は困難。周囲に甘やかされて育ち、しばしば癇癪を起こす。人形遊びを好む。
アーサー・ケラー: ヘレンの父。元南軍の大尉で、家では「大尉」と呼ばれる。大地主。娘を愛しているが、日常の混乱から怒りっぽい性格になっている。ヘレンにしつけが必要だと考えつつも、甘やかす傾向がある。北部出身のサリヴァンに対し、偏見を示す言動も見られる。
ケイト・ケラー: ヘレンの母。アーサーの後妻。ヘレンとの会話を強く望み、娘の思いを理解しようと努めるがあまり、神経質になっている。ヘレンのために様々な治療法を試してきた。
ジェームズ・ケラー: アーサーと前妻の息子。ヘレンの異母兄。ヘレンのためには施設に入れた方が良いと考えている。皮肉屋で軽口をたたくことが多いが、根は悪い人間ではない。
ヘレンの叔母: ケラー家を訪れる親戚。ヘレンを心配し、視覚障害者施設への相談を提案する。

評価

本作は批評家から高く評価され、アカデミー賞では主演女優賞（アン・バンクロフト）と助演女優賞（パティ・デューク）を受賞するなど、5部門にノミネートされた。アン・バンクロフトとパティ・デュークは、それぞれ舞台版でも同じ役を演じており、その鬼気迫る演技は特に絶賛された。アメリカン・フィルム・インスティチュートが選出した「感動の映画ベスト100」でも15位にランクインするなど、教育の力、人間的な触れ合い、そして不可能を可能にする奇跡を描いた不朽の名作として、今なお多くの人々に感動を与え続けている。

もう一度検索