奇面館の殺人

奇面館の殺人：館シリーズ第九弾の謎解き

綾辻行人による人気推理小説シリーズ「館シリーズ」の第9作目、『奇面館の殺人』は、密室殺人を軸に展開する本格ミステリーです。1993年3月末、推理作家の鹿谷門実は、容姿が瓜二つの作家、日向京助から奇妙な依頼を受けます。それは、富豪・影山逸史の別荘で行われる1泊2日の集まりに、自身の身代わりとして出席してほしいというものでした。

その別荘、奇面館は、有名な建築家・中村青司が設計したことで知られており、鹿谷は依頼を引き受けます。東京都下の僻地にある奇面館には、影山逸史と同じ年齢や生年月日を持つ6人の招待客が集められていました。しかし、影山は人の表情を極端に嫌悪しており、館の中では招待客は顔全体を覆う仮面を着用、館の従業員は能面を着用するという奇妙なルールが設けられていたのです。

季節外れの大雪に見舞われる中、1日目は特に事件も起こらず過ぎ去ります。しかし、翌朝、衝撃的な事件が発生します。影山と見られる、頭部と両手の指が欠損した死体が発見されたのです。さらに、招待客たちは睡眠薬で眠らされ、仮面を着用させられた上に、部屋の鍵を掛けられ、身動きが取れない状態にありました。

大雪により外部との連絡も途絶えた奇面館。死体が本当に影山本人なのか、誰かと入れ替わっていないのか、仮面によって素顔が隠された招待客たちはそれぞれに疑念を抱きます。限られた空間、不可解なルール、そして、雪によって孤立した状況。鹿谷は、他の招待客たちと共に、この不可解な事件の真相解明に挑むことになります。

個性豊かな登場人物たち

登場人物たちは、作中では主に着用している仮面の種類で呼ばれています。仮面の下に潜むそれぞれの思惑、そして、仮面によって隠された素顔。物語を読み進めるごとに、登場人物たちの過去や人間関係が見えてきます。

影山逸史: 奇面館の主人。表情というものを極端に嫌い、常に「祈りの仮面」を着用。招待客にも仮面の着用を義務付けています。
歓びの仮面: 「S企画」という会社の社長。姓名判断の結果を元に改名しており、「創馬社長」と呼ばれています。
驚きの仮面: マジシャン、忍田天空。
嘆きの仮面: 「黒死館殺人事件」の登場人物、降矢木算哲の生まれ変わりを自称する変わり者。「算哲教授」と呼ばれています。
懊悩の仮面: 設計士。クリスチャンで、館の中では洗礼名「ミカエル」と呼ばれています。
怒りの仮面: 兵庫県警の警察官。かつては捜査一課の刑事でしたが、負傷のため閑職に回されています。「ヤマさん」と呼ばれています。
新月瞳子: 影山家に仕えるメイド。薬学部の大学生で、叔母の緊急入院に伴い代理として雇われました。
鬼丸光秀: 影山の秘書。
長宗我部: 奇面館の管理人。
鹿谷門実: 推理作家。日向京助の身代わりとして奇面館を訪れます。「哄笑の仮面」を着用します。
* 日向京助: 怪奇幻想小説作家。鹿谷と容姿がそっくりで、難聴の治療のため集まりに参加できず、鹿谷に身代わりを依頼しました。過去に奇面館を建てた影山透一を取材した経験があり、その際に逸史とも会っています。

複雑に絡み合う謎と、巧妙なトリック

『奇面館の殺人』は、密室トリックや、登場人物たちの個性、そして大雪という自然現象を巧みに絡ませることで、読者を最後まで飽きさせない展開を見せています。仮面というモチーフが、登場人物たちの心理描写や、事件の真相に深みを与えています。閉鎖的な空間、不可解なルール、そして、次々と明らかになる事実。真相へと迫る過程で、読者は次々と新たな謎に直面することになり、ページをめくる手が止まらなくなるでしょう。

綾辻行人の緻密な構成力と、鮮やかなトリックは、本格ミステリーファンを十分に満足させる作品となっています。奇面館という特殊な空間で繰り広げられる、スリリングで魅力的な物語を、ぜひお楽しみください。

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