奥柿幸雄

奥柿 幸雄

1948年6月6日、静岡県に生まれた奥柿幸雄（おくがき さちお）は、将来を嘱望されながらも短いプロ野球人生を終えた元プロ野球選手です。

高校時代

静岡商業高校に進学した奥柿は、主に一塁手としてプレーし、控え投手も兼任しました。3年生の1966年夏、チームは甲子園を目指して静岡県予選を勝ち進みます。決勝戦では掛川西高校を相手に、5点を追いかける苦しい展開となりましたが、奥柿はリリーフとしてマウンドに上がり、チームは終盤に逆転して甲子園への切符を手にしました。

夏の甲子園本大会では、1回戦の金沢商業高校戦で快勝。この試合で奥柿は左打者ながらレフト方向へ大きな本塁打を放ち、これが大会第2号となりました。この一発で彼の長打力は全国的な注目を集めました。また、この試合では投手としても甲子園での初登板を果たしています。しかし、続く2回戦では、この大会で準優勝する強豪、松山商業高校と対戦。松山商のエース西本明和投手の前に打線が抑え込まれ、1対5で敗退しました。

プロ入りと期待

高校卒業を控えた1966年秋、奥柿は第1次ドラフト会議において、サンケイアトムズから1位指名を受けてプロ野球の世界に進みました。高校時代から「王2世」との異名をとるほどその打撃には高い評価があり、球団は彼への期待の大きさを形にしました。背番号には、当時読売ジャイアンツの主砲であり国民的な人気を誇った王貞治選手と同じ「1」が与えられました。当時のサンケイでは、一塁手のレギュラーであった豊田泰光選手や小淵泰輔選手にベテランの域が見え始めており、球団は奥柿を彼らの後継者として、将来の主軸打者となることを強く期待していました。

プロでのキャリア

大きな期待を背負ってプロ入りした奥柿は、1年目から一軍の舞台に立ちます。シーズン開幕後、5月には早くもクリーンナップの一角として4試合に出場するなど、首脳陣の期待の高さがうかがえました。プロ2年目の1968年には、前年を上回る26試合に先発出場。シーズン後半には五番打者として起用される機会が増え、同年9月には2試合で四番打者も任されました。しかし、高い期待とは裏腹に、打撃面では目覚ましい成績を残すには至らず、プロの壁にぶつかる形で伸び悩みが続きました。球団がアトムズへと名称を変更した1969年には、一塁手に強力な外国人選手（ロバーツ、チャンス）が加入した影響もあり、出場機会を確保するために外野手も兼任するようになりました。

退団とその背景

奥柿選手のプロ野球キャリアは、わずか数年で終わりを迎えました。その退団の経緯については、複数の情報源で異なった記述が見られます。

『プロ野球人名事典 2003』では、1970年のシーズン中に、周囲からの大きな重圧に耐えきれなくなった奥柿選手が突然チームを離れ、そのまま解雇された、と記されています。

一方、『週刊ベースボール』1970年12月14日号（ベースボール・マガジン社刊）に掲載された記事には、異なる経緯が書かれています。それによると、奥柿選手は1970年シーズンオフの11月3日に行われた秋季練習を無断で欠席。そのまま2、3日ほどチームに姿を見せず、行方不明の状態となりました。この事態に対し、ご家族が警察に行方不明届を提出しようとした矢先、奥柿選手は自ら姿を現しました。そして、自らの意思で現役からの引退を決断したとされています。記事には、当時の奥柿選手本人の談話として、「早くプロの汚れ切った気持ちを整理して再起したい。地道なサラリーマンが向いているのかもしれないですね」という言葉が残されており、プロ野球の世界への葛藤や疲弊があったことを示唆しています。

いずれの説が正確であるにせよ、高い注目と期待を集め「王2世」とまで称された大型内野手は、プロの厳しい世界で才能を開花させることはできず、短期間で球界を去ることとなりました。プロ野球選手としての登録は、サンケイ（1967-1968）、アトムズ（1969）、ヤクルト（1970）と球団名が変更される中で行われ、背番号はプロ入りから引退まで一貫して「1」でした。

期待された才能と現実のギャップ、そして波乱含みの退団劇は、プロ野球の厳しさを物語る一例と言えるでしょう。

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