奪取

『奪取』 - 真保裕一の長編小説

『奪取』は、日本の作家真保裕一による長編小説で、1994年から1995年にわたり『東京中日スポーツ』などで連載された作品です。初の単行本として1996年8月に講談社から発売され、その後文庫版も登場しました。物語は、主人公が友人の借金を返すために偽札作りに挑む姿を描き、全3部構成となっています。各部ごとに主人公の名前が変更され、それぞれ異なる視点から物語が展開されます。

受賞歴

本作は第10回山本周五郎賞や第50回日本推理作家協会賞長篇に輝いており、その評価の高さを示しています。

あらすじ

第1部：手塚道郎編

物語は、22歳の無職青年、手塚道郎から始まります。彼は友人の西嶋雅人が無理やりヤクザに借金を背負わされたことから、1260万円の返済を決意します。道郎と雅人は偽札作りに挑戦し、ATMから紙幣判別機を盗みます。この計画は順調に進むかに見えましたが、彼らの行動はヤクザに嗅ぎつけられてしまいます。道郎は途中で出会った老人、水田鉱一の助けを借りますが、最終的に雅人を売る決断を下します。

第2部：保坂仁史編

道郎は次に保坂仁史として新たな人生を歩み始め、水田や女子中学生の幸緒と共に本格的に偽札作りのノウハウを学びます。印刷会社で働く仁史は、偽札作りを進めるうちに、幸緒の会社が乗っ取られたり、水田の消息が消えたりと様々なトラブルに巻き込まれます。元の借金の相手であるヤクザが絡んでいることを知り、水田を救おうと試みますが、失敗に終わります。

第3部：鶴見良輔編

物語の最後では、道郎は再び名前を変え、鶴見良輔として新しい生活を始めます。不運にも刑期を終えた雅人と再会し、幸緒も大学生になって復讐を誓います。彼らは帝都銀行と東建興業への復讐を果たすため、完璧な偽札を作ることを目指します。仇敵に対する怒りと復讐心が彼らを駆り立て、物語はクライマックスへと突入します。

エピローグ

本作のエピローグでは、著者の真保裕一にまつわるエピソードが収録されており、物語への深い理解を得るための重要な要素となっています。彼の視点が加わることで、作品全体のテーマやキャラクターへの理解が一層深まります。

『奪取』は、友情、裏切り、そして復讐といった人間の根源的な感情を描いた作品であり、その緊張感とドラマは読者を惹きつけてやみません。

もう一度検索