女優と詩人

『女優と詩人』解説

『女優と詩人』は、1935年（昭和10年）3月21日に公開された、成瀬巳喜男監督によるP.C.L.製作の映画です。本作は、前年に松竹からP.C.L.へ移籍した成瀬監督の移籍第二作目であり、初のトーキー作品として『乙女ごゝろ三人姉妹』と同月に公開されました。

あらすじ

物語は、売れっ子女優である妻・千絵子と、童謡詩人である夫・月風の夫婦生活を中心に展開します。月風は、詩作に励むものの、その収入はわずかで、実質的に千絵子の稼ぎに頼って生活しています。千絵子は、自宅でも芝居の稽古に余念がなく、家事は全て月風に任せきりという状況です。ある日、千絵子に頼まれて煙草を買いに出かけた月風は、友人である作家の能勢が家賃を滞納し、追い出されそうになっていることを知ります。

近所に住むお浜は、好奇心旺盛で、頻繁に月風を訪ねては噂話に興じています。そんな中、近所に越してきた若い夫婦に、お浜は保険勧誘を企てます。その結果、若夫婦は保険契約を結び、お浜夫婦と月風は祝杯をあげます。酒に酔った月風は、自宅で千絵子への不満を漏らしてしまいます。それを偶然聞いてしまった千絵子は、夫の本音を知ることになります。

その後、千絵子が夫婦喧嘩のセリフを練習していると、能勢が訪れ、それを本物の喧嘩だと勘違いして止めに入ります。能勢は、ついに借家を追い出されたことを告げ、月風に間借りを願い出ます。月風は能勢を助けるつもりで承諾しますが、それを知った千絵子と大喧嘩になります。一方、向かいの若夫婦は心中を図り、近所では激しい夫婦喧嘩が繰り広げられます。独身の能勢は、夫婦生活の大変さを目の当たりにする中で、喧嘩を通じてより絆を深め合う月風と千絵子の姿に、複雑な感情を抱くのでした。

登場人物

二ツ木月風: 童謡詩人。妻の稼ぎで生活している。
二ツ木千絵子: 人気女優。夫に家事を任せている。
能勢梅童: 月風の友人である作家。家賃を滞納して困っている。
お浜: 近所に住むおしゃべりな主婦。
お浜の亭主: 保険会社に勤務。
若い男: 近所に引っ越してきた。
若い女: 近所に引っ越してきた。

スタッフ

監督: 成瀬巳喜男
脚本: 永見隆二
原作: 中野実
撮影: 鈴木博
美術: 久保一雄
音楽: 伊藤昇
演奏: P.C.L.管弦楽団


この映画は、当時の夫婦のあり方や、それぞれの価値観の違い、そして夫婦関係の難しさをコミカルに描いています。また、成瀬監督の初期作品でありながら、その後の作風につながる要素が垣間見えます。

外部リンク

* 女優と詩人 - KINENOTE

もう一度検索