女子高生の放課後アングラーライフ

女子高生の放課後アングラーライフ：いじめの傷痕と新たな友情の物語

2021年10月、角川スニーカー文庫より刊行された井上かえる氏によるライトノベル『女子高生の放課後アングラーライフ』。白身魚氏が担当したイラストと共に、第26回スニーカー大賞優秀賞を受賞した本作は、2023年4月29日には映画『放課後アングラーライフ』として劇場公開されました。

物語の中心は、東京の女子高生、追川めざし。些細なことから同級生から執拗ないじめに遭い、耐え難い日々を送っていました。そんな中、父親の仕事の都合で、関西の漁港町へと転校することになります。めざしは、この転校をいじめの地獄からの脱出と捉え、安堵する一方でした。

転校先の高校で、めざしはクラスメイトの白木須椎羅と出会います。椎羅は、めざしを海釣り同好会「アングラ女子会」に誘い、めざしは断りきれずに同好会に参加することに。これまで釣りを経験したことがなかっためざしでしたが、同好会のメンバーである汐見凪や間詰明里から釣りの指導を受け、徐々に釣りへと魅せられていきます。

しかし、めざしは過去のいじめ体験から、周囲に心を閉ざし、作り笑顔で過ごしていました。凪はめざしの様子に違和感を覚え、過去のSNSなどを調べ、めざしの辛い過去を知ります。そして、めざしに優しく寄り添い、ありのままの自分をさらけ出すよう促します。

めざしは、同好会の仲間たちとの交流を通して、少しずつ心を開いていきます。釣りに熱中する日々の中で、めざしは大きなガシラを釣り上げ、「ガシラ釣り名人」と呼ばれるなど、仲間たちから認められ、喜びを分かち合います。初めて本当の友情を感じ、閉ざされていた心が解き放たれていく様子が丁寧に描かれています。

しかし、椎羅との関係にちょっとした波乱も訪れます。椎羅のいたずらがきっかけで、めざしは激怒してしまうのです。その後、椎羅が入院する出来事が起き、お見舞いに行っためざしは、椎羅と涙ながらに話し合い、お互いの心の内を打ち明けます。この経験を通して、めざしは凪や明里との友情を更に深めていくのです。

物語には、めざし以外にも個性豊かなキャラクターが登場します。元気で天真爛漫な椎羅、クールで冷静な凪、勝気な性格の明里、そしてめざしを優しく見守る担任の西川先生や、漁港町の住人など、それぞれのキャラクターがめざしの成長を支えていきます。

舞台となるのは兵庫県たつの市室津漁港。作品中には、めざしと椎羅がソフトクリームを分け合って食べたり、「幸せの鐘」を鳴らしたりするなど、実際に存在する場所が登場します。小説の世界観と現実が重なり合うことで、読者に一層の没入感を与えていると言えるでしょう。

映画版では、十味、まるぴ、平井珠生、森ふた葉などが出演し、原作の魅力をさらに広げました。キャッチコピーである「釣りも、トモダチづくりも、まったくの初心者です。」は、めざしの心境と、映画全体のテーマを象徴的に表しています。

『女子高生の放課後アングラーライフ』は、いじめや友情、そして成長といった普遍的なテーマを、釣りというユニークな題材を通して描いた作品です。心に傷を持つ人、新たな友情を求める人、そして青春のきらめきをもう一度感じたい人にとって、共感と感動を与えてくれる、心温まる物語と言えるでしょう。

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