女山大根

女山大根（おんなやまだいこん）

佐賀県多久市で栽培される伝統野菜、女山大根は、地理的表示保護制度(GI)に登録されています。学名はRaphanus sativus L. var. hortensis Backerです。

概要

女山大根は、佐賀県唐津市と多久市にまたがる女山の麓で栽培されています。その特徴は、何と言ってもその大きさにあります。長さ80センチメートル、胴回り60センチメートル、重さ13キログラムにも達するものもあり、一般的な青首大根の数倍の大きさを誇ります。また、茎や表皮にアントシアニンを含むため、鮮やかな赤紫色をしています。根の内部は白いですが、表皮の赤色は加熱すると失われます。青首大根と比較すると、糖度が約1.5倍と高く、大根特有の辛味が少ないのが特徴です。繊維質が細かく、肉質が硬いため、煮崩れしにくいという利点もあります。

生産者数は約30名と少なく、年間生産量も約10トン（2020年時点）と限られています。

利用

女山大根は、一般的な大根と同様に、様々な料理に利用できます。その美しい赤色を活かして、サラダやなますにするのがおすすめです。特に、柚子の果汁を加えると、赤紫色がより一層鮮やかになります。煮物にも最適で、煮崩れしにくい肉質を活かすことができます。ただし、加熱すると赤色が失われる点には注意が必要です。

また、女山大根の甘みと色を活かしたスイーツも人気があります。葉の煮汁や大根おろしを使ったゼリー、シャーベット、アイスクリームなど、珍しいスイーツが作られています。

栽培

女山大根の作付けは夏の初めに行われ、収穫は12月から翌年2月にかけて行われます。一般的な大根と比べて、作付けから収穫まで約2倍の時間を要しますが、この栽培期間の長さが糖度の高さに繋がっていると考えられています。栽培には手間がかかり、大きさも不揃いになりやすいため、大量生産には向いていません。そのため、限られた地域でのみ栽培されています。

歴史

女山大根は、江戸時代から女山村（現在の多久市西多久町）を中心に栽培されてきたと伝えられています。多久氏から佐賀藩の藩主への献上品として、「牛に大根4本を背負わせて献上した」という逸話も残っています。また、江戸時代の多久地域を記録した文献『丹邱邑誌』（1847年）にも、女山大根についての記述が見られます。多久出身の儒学者、草場佩川も、女山大根を詩や絵に好んで取り上げていました。

しかし、女山大根は大きくなりすぎるため、市場の規格に合わず、自家用としてわずかに栽培されるのみとなりました。自家採種を繰り返した結果、他の大根と交雑し、在来種本来の色や形が失われていきました。昭和初期には、ミカンなどの栽培に転換したこともあり、一時消滅の危機に瀕しました。

その後、在来種の珍しい大根を地域の特産品として見直す動きが起こり、昭和60年代から佐賀県佐城農業振興センターや多久市が産地復興に取り組みました。地域に残っていた種子を佐賀県農業試験研究センターに持ち込み、約10年かけて交配と選抜を繰り返し、本来の姿と形を復元することに成功しました。

1995年に開業した地域農産物直売所「幡船の里」の目玉商品として、産地復興を進めましたが、当時の生産者数は2～3名、生産量も1トンに満たない量でした。2022年6月29日には、女山大根は地理的表示保護制度(GI)に登録され、佐賀県内の農林水産物として初の登録となりました。

定義

地理的表示保護制度(GI)登録にあたり、「重さが2キログラム以上あるもの」という要件が定められました。

女山大根は、その独特な色と甘み、そして歴史と文化を背負った、まさに地域を代表する伝統野菜です。

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