好男好女

『好男好女』（こうなんこうじょ）は、1995年に台湾と日本が合作して製作された映画です。名匠ホウ・シャオシェン監督が手掛けた作品群の中でも、特に台湾の近現代史を主題とした三部作、すなわち『悲情城市』、『戯夢人生』に続く最終章として位置づけられています。

企画当初、監督は白色テロ時代に焦点を当てる構想を抱き、釈放された老政治犯を題材にした朱天心の小説を原作に想定していました。しかし、アイドル歌手出身の伊能静を主演に迎えた後、藍博洲による政治的迫害の犠牲者たちの記録『幌馬車の歌』へと原作が変更されるに至ります。この変更に伴い、物語の中心は鍾浩東、蒋碧玉夫妻をはじめとする人々の悲劇へと移りました。

本作の最も特徴的な点は、この歴史的な悲劇を描く劇中劇（モノクロ映像）と、それを演じる現代の女優リャンジン（伊能静）自身の人生や苦悩（カラー映像）を並行して描くという、重層的かつ独創的な構成にあります。ホウ・シャオシェン監督は、過去の歴史的出来事を現代の視点から問い直すため、このような構造を選びましたが、その結果として、史実上の人物である鍾浩東・蒋碧玉夫妻の物語が、現代パートの物語にやや影を潜めてしまったという評価も存在します。しかし、この二重構造こそが、過去と現在の台湾、個人の記憶と歴史の記憶、そして俳優という存在の内面と外面をダイナミックに対比させ、観る者に深い考察を促す力となっています。

物語は、白色テロ時代を描いた劇中劇『好男好女』で蒋碧玉を演じる女優リャンジンに送られてくる、彼女の盗まれた日記の断片という謎めいた出来事から始まります。この日記には、亡き恋人アウェイとの日々や、彼の死後に酒に溺れ、自暴自棄になった自身の赤裸々な過去が綴られています。一方、リャンジンが撮影に臨む劇中劇では、蒋碧玉らが国民党によって逮捕され、厳しい尋問を受け、投獄される過酷な日々が描かれていきます。そして、多くの人々が次々と処刑されていく中、蒋碧玉の夫である鍾浩東もまた命を落とすという悲劇的なシーンの撮影が迫ります。現代を生きるリャンジンの個人的な苦悩と、彼女が演じる蒋碧玉が経験する歴史上の悲劇が、ファックスで送られてくる日記という奇妙な糸によって結びつけられ、観客は過去と現在を行き来しながら物語を追体験することになります。ファックスの送り主の目的は一体何なのか、というサスペンス要素も物語に加わっています。

この作品は、第48回カンヌ国際映画祭に出品され、国際的な注目を集めました。また、台湾国内では、第32回金馬奨においてホウ・シャオシェン監督が最優秀監督賞を受賞するなど、高い評価を受けています。

主要なキャストとしては、現代女優リャンジンと劇中劇の蒋碧玉を一人二役で演じた伊能静、劇中劇の鍾浩東を演じたリン・チャン、現代パートのリャンジンの恋人アウェイを演じたガオ・ジェなどが名を連ねています。スタッフには、監督のホウ・シャオシェンをはじめ、脚本のチュー・ティエンウェン、撮影のチェン・ホァィエン、編集のリャオ・チンソンといった、ホウ組には欠かせない面々が集結しています。特にモノクロとカラーを使い分けた撮影、そして現代パートにおける独特なカメラワークは、その後のホウ・シャオシェン作品のスタイルを決定づける上で重要な一歩となりました。

『好男好女』は、台湾の暗い過去である白色テロと、現代に生きる個人のアイデンティティの問題を巧みに結びつけ、歴史と記憶、そして現実と虚構が交錯する複雑な人間ドラマとして描かれた、ホウ・シャオシェン監督の到達点の一つと言えるでしょう。その実験的な構成と映像表現は、公開から時を経た現在も多くの観客や批評家によって議論され続けています。

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