妖虫

『妖虫』の概要

『妖虫』は、江戸川乱歩によって書かれた長編スリラーであり、1933年から1934年にかけて連載されました。この作品は、探偵小説でありながら、伝統的な謎解きよりも美的で妖艶な要素や怪奇な側面が強く表現されています。物語に登場する「妖虫」という言葉は、昆虫ではなく、赤いサソリを指しています。これにより、本作は独特の雰囲気と緊張感を生み出しています。

あらすじ

物語の主人公である大学生・相川守は、ある晩、妹の珠子とその家庭教師の殿村京子と一緒にレストランで食事をしていました。偶然にも、殿村が読唇術を使い、顔見知りの「青眼鏡の男」とその仲間が何か大きな犯罪を計画している様子を目撃することになります。この情報をもとに、守は翌日の深夜に彼らの会話に出た空家を訪問しますが、そこで5日前に失踪した美人女優・春川月子の遺体を見つけてしまいます。

守は、この悪質な犯罪グループ「赤サソリ」の存在を知ることになります。彼らは美しい女性を狙い、残酷な手口で次々と誘拐し、殺害していくのです。守は、珠子が次の標的になるのではないかと不安に駆られ、名探偵の三笠竜介に協力を求めます。しかし、守は青眼鏡の男に追いつかれ、逆に脅かされることになります。

警察が頼りにならないと感じた守は、三笠と共に事件を解決しようと試みますが、彼らは巧妙な罠にかかってしまいます。その後、珠子は誘拐され、明かりの下で彼女の遺体がショーウインドウに飾られるという恐ろしい事件へと発展していきます。守と三笠は、様々なトリックを駆使しながら、果敢に犯人に立ち向かい、珠子の救出に奮闘します。

さらに、物語は新たな展開を迎え、守の周りの人々にも次々と危険が迫ります。家庭教師の殿村は失意の中、相川家を去りますが、彼女の後任である桜井の品子は「赤サソリ」に狙われてしまいます。今度は品子も誘拐され、守は再び三笠と共に解決に挑まなければなりません。

解説

『妖虫』は、江戸川乱歩の作品の中でも特に独特の作品として位置づけられています。乱歩自身は、物語の中で扱われるテーマや登場人物について多くの工夫を施しました。本作は1933年の『キング』誌で初めて連載され、原作は1934年に単行本として刊行されました。

登場人物たちには、独自の魅力と複雑な背景があり、探偵小説の枠を超えた心理的な深みがあります。特に、主人公の守は、ただ探偵に憧れるだけでなく、実際に妹を救うために行動を起こすという、非常に人間味あふれるキャラクターです。

作品の中では、さまざまな印象的な描写がされており、乱歩特有の「エロ・グロ」な要素が強調されています。特に美しさと残虐性がスリリングに描かれることで、読者に強い印象を与えています。また、収録されている挿絵も当時の状況を反映した秀逸なもので、物語に一層の深みを与えています。

乱歩の作品は、特にその後の文学や映像に多くの影響を与えており、『妖虫』も例外ではありません。戦後には、若い読者向けに改作され、様々な形を持った作品として受け継がれています。これにより、江戸川乱歩の独自のスタイルやテーマが今でも親しまれ、文学界での地位を確立し続けています。

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