妙法寺 (津山市)

岡山県津山市の西寺町に佇む妙法寺は、長昌山を山号とする日蓮宗の寺院です。かつては京都の妙覚寺を旧本山とし、日蓮宗の伝統的な法縁の一つである奠師法縁に連なる寺院として、歴史を重ねてきました。

この寺院の創立は、室町時代の永享13年（1440年）頃にまで遡るとされています。当時の鶴山城主であった山名忠政公が、鶴山の柳の段と呼ばれた場所に妙王院という寺院を建立したことが、妙法寺の起源であると伝えられています。ただし、寺の創建年については諸説あり、『岡山県大百科事典』によれば嘉吉年間（1441年から1444年）、『作州城西史』では1440年（永享13年）頃と記されており、若干の年代差が見られます。

江戸時代に入り、慶長9年（1604年）、美作国の領主となった森忠政公が、新たな居城となる鶴山城の築城を進めるにあたり、妙法寺（当時は妙王院か）は鶴山の地から南新座へと移されました。さらに、津山の城下町が本格的に整備されていく過程で、元和3年（1617年）には、現在の西今町へと再び移転し、今日の境内の基盤が築かれました。このように、妙法寺は城の改築や城下町の発展といった時代の大きな流れとともに、その場所を移しながら存続してきた歴史を持っています。

妙法寺は、その長い歴史の中で多くの貴重な文化財を伝えています。中でも、本堂は岡山県の指定文化財に登録されており、承応元年（1653年）に建立された重厚な木造建築です。建物の規模は、正面が五間、側面が六間となっており、前面には一間の向拝が設けられています。高さは約15メートルにも及び、堂々とした佇まいを見せています。

また、津山市の指定文化財には、本堂の脇に建つ鐘楼があります。この鐘楼は、袴腰付という特徴的な建築様式を備えています。鐘楼に吊るされている梵鐘には、「元禄第五壬辰暦」という年紀が刻まれており、元禄5年（1692年）に製作または改鋳されたものであることがうかがえます。

さらに、同じく津山市の指定文化財である鰐口も特筆すべき文化財です。この鰐口は青銅製で、面径は約53センチメートル、胴径は約56センチメートル、重量は約25.5キログラムという大きさです。鰐口には銘文が刻まれており、それによると、藤原摂津守家次善太夫という人物によって製作されたものであり、慶長18年（1613年）に当時の作州津山冨川村にあった妙法寺へ寄進されたものであることが記されています。これは、現在地に移転する前の妙法寺の存在を示す貴重な資料とも言えます。

かつての日蓮宗においては、本山と末寺という関係性がありましたが、昭和16年の宗教団体法改正に伴う本末解体により、現在では「旧本山」「旧末寺」という呼称が用いられています。妙法寺には、かつて旧末寺として、岡山県苫田郡鏡野町入にある福聚山無量寺と、津山市下野田にある妙法山經王寺がありました。

妙法寺の境内には、日本の歴史や文化に名を残した様々な人物の墓所も静かに安置されています。江戸時代の狩野派の絵師として知られる狩野如林、優れた刀剣を制作した刀工・兼景、文人画家として活躍した飯塚竹齊、そして地域社会に貢献した教育者・竹内文子といった人々が、この地で永眠しています。

このように、妙法寺は室町時代の創建から現代に至るまで、津山の歴史とともに歩み、多くの文化財や著名人の墓所を擁する、地域にとって重要な寺院です。これらの要素が組み合わさることで、妙法寺は単なる宗教施設としてだけでなく、地域の歴史、文化、そして人々の営みを伝える貴重な存在となっています。

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