姉小路 (和宮の大叔母)

姉小路勝子：幕末大奥の影の支配者

姉小路勝子（1810-1880）は、幕末期に大奥で絶大な権力を振るった上臈御年寄でした。橋本実誠の娘として生まれ、兄に橋本実久、妹に水戸藩の老女・花野井をもち、和宮の生母である観行院とは叔母にあたります。

大奥への入洛と昇進

17歳で江戸に下向し、大奥へ入りました。当初は徳川家斉の娘・和姫付き女中として仕え、その後上臈年寄に昇格。和姫の毛利斉広への嫁入りにも従い、長州藩桜田上屋敷に移り住みましたが、和姫の早世により江戸城へ戻ります。その後、再び将軍家斉付の小上臈となりました。

徳川家慶時代と権勢の絶頂

徳川家慶が将軍になると、姉小路は将軍付上臈御年寄となり、本丸大奥で権勢を誇るようになります。その影響力は人事にも及び、大名家の婚姻や養子縁組の斡旋を行い、大名からの献金が絶えませんでした。公家の出身者が多い上臈御年寄の中でも、類まれな権力者であったとされています。家慶との密接な関係を示唆する噂も流れていました。天保15年（1844年）には、姉小路の食べた天ぷらが原因で起こった火災により、本丸が全焼するという大惨事が発生し、数百人の奥女中が亡くなりました。この責任を他者に転嫁したとも言われています。

政治への関与と晩年

姉小路は、妹の花野井を通じて水戸藩主・徳川斉昭と文通を行い、政治にも関与していました。将軍家慶の養女・線姫の縁組問題でも、激しい書状のやり取りを行っています。家慶の死後、落飾して勝光院と号し、上臈御年寄を退きました。しかし、政治的影響力は衰えず、大奥に出入りし続けました。

公武合体政策の一環として、家茂の正室に和宮を迎える際には、橋本家や和宮の母・観行院を説得するため、京都に赴き奔走しました。和宮降嫁後も、大奥における御所風と武家風の対立の調停に尽力しました。家茂の死後に行われた和宮の薙髪式では、その髪を切る役目を務めたと記録に残っています。その後については不明な点が多く残されています。明治13年（1880年）、没しました。

姉小路勝子像：権力と陰謀の狭間で

姉小路勝子は、類まれな権力と政治的影響力を持った女性でした。将軍家との密接な関係、大名家との繋がり、そして政治への介入などを通して、幕末の大奥を陰から操り、歴史の大きな流れに影響を与えたと言えるでしょう。しかし、その一方で、火災事件への関与や責任転嫁など、負の側面も指摘されています。彼女の人生は、権力と陰謀、そして謎に満ちた、魅力的な人物像として、今もなお多くの研究者を魅了し続けています。彼女が残した足跡は、幕末の歴史を理解する上で欠かせない重要な要素となっています。様々な史料や伝承を紐解きながら、その実像に迫る試みは、これからも続いていくでしょう。

参考文献

畑尚子「姉小路と徳川斉昭 内願の構図について」『茨城県史研究　94号』p1-18、2010年
氏家幹人『江戸の女の底力』世界文化社、2004年

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