威徳流

威徳流（いとくりゅう）

威徳流は江戸時代に存在した能楽の大鼓方の一流儀である。この流派は、幸流とも呼ばれており、現在は廃絶している。威徳流の芸祖とされるのは、伊勢国出身の観世四郎次郎であり、彼の活動は18世紀中期まで遡ります。

この流派に関する詳細な記録として、『隣忠見聞集』が挙げられます。この文献には、役者として「甚左衛門」、「源四郎」、「源三郎」、そして「今の甚左衛門」といった名前が登場し、それぞれが威徳流を代表する人物とされていたことがわかります。また、流派の名は『三井寺』の一節にて、三井寺の威徳が称賛されたことに由来しているとも伝えられていますが、その真偽は不明です。

江戸時代には、威徳流は宝生座に付属する流派として認知されていました。しかし、初期の家元であった威徳五左衛門は、父親を早世したために小鼓方の幸五郎久能に師事していました。このため、近世中期にかけては、小鼓方が大鼓方に指導を行うことが一般的であったため、威徳流はその独自の特色を失い、次第に幸流の一部として融合することになりました。その結果、流派は「幸流大鼓」として知られるようになり、現在ではあまり知られていない存在となっています。

青葉仙台藩に仕えていた白極家は、近世後期において威徳流の代表的な家系として知られましたが、明治維新以後に入ると、この流派は消え去ってしまいました。威徳流に関する文献は限られており、特に『能楽全書』や『能・狂言事典』、『岩波講座 能・狂言』のような書籍が、流派の歴史やその意義を探る手助けとなっています。

このように、威徳流は日本の伝統芸能の一部でありながら、時代の波に流されて廃絶してしまった流派の一つである。その特異な歴史と文化的背景を理解することによって、我々は過去の能楽の多様な影響や変遷をより深く知ることができる。

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