子守歌 (ショパン)

フレデリック・ショパンが1844年に世に送り出したピアノ独奏曲に、『子守歌 変ニ長調 作品57』があります。この作品は、翌1845年に出版され、エリーズ・ガヴァール嬢に献呈されました。

興味深いことに、作曲当初、この作品は「変奏曲」という題名が付けられていました。しかし、試演の際に改訂が加えられ、現在の穏やかな響きを持つ「子守歌」という名前に改められたのです。このことは、作品が持つ変奏曲としての性格と、子守歌としての情緒的な性格の両面を示唆しています。

楽曲は変ニ長調、速度指示はAndante（アンダンテ）です。その構造には、この曲独特の特徴が際立っています。右手が奏でるのは、優しく穏やかな4小節からなる旋律です。この主要な旋律が、合計15回にわたって様々な姿に形を変えて繰り返されていきます。

対照的に、左手の伴奏パートは、ほぼ全曲を通して同じ和声パターン、具体的には主音のバスを基盤としたアルペジオや和音の繰り返しが続きます。終盤でわずかに変化が見られる以外は、この揺りかごを揺らすような一定のパターンが絶えず反復されるのです。

この「固定された低音の上での旋律の変奏」という構成は、バロック時代の音楽、例えばパッサカリアやシャコンヌといった形式を連想させます。ショパンはロマン派の作曲家ですが、このような対位法的、あるいは反復を基盤とする形式構造を巧みに取り入れている点が、本作の音楽的な深みを与えています。

ショパンは初期に『華麗な変奏曲』や『民謡主題の変奏曲』といった単独の変奏曲を作曲していますが、後期においてもバラード第4番など、様々な作品の中で変奏技法を重要な構成要素として用いています。この『子守歌』作品57もまた、ショパンが旋律美だけでなく、変奏という厳格な形式においても非常に優れた手腕を持っていたことを示す証左と言えるでしょう。

左手の単調な繰り返しが生み出す催眠的な効果と、その上で右手が織りなす変幻自在で技巧的な、時には装飾音をふんだんに使った華麗な変奏が見事に融合し、子守歌としての安らぎと、ピアノ作品としての聴きどころを提供しています。穏やかな響きの中に、作曲者の高度な技法が隠されている、ショパンの中期を代表するユニークな作品の一つです。

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