孔尚任

孔尚任：清朝を代表する劇作家と『桃花扇』

孔尚任（こうしょうじん、1648年11月1日-1718年2月16日）は、清朝初期を代表する劇作家、詩人です。字は聘之（へいち）または季重（きじゅう）、号は東塘（とうとう）、岸堂（がんどう）、雲亭山人（うんていさんじん）と称しました。名門の出身で、あの孔子の64世の孫にあたります。

山東省兗州府曲阜県に生まれた孔尚任は、1684年、康熙帝の曲阜への行幸に際し、その才能を認められて国子監博士に任命されました。その後、淮安や揚州で3年間河川工事にも携わった経験を持ちます。この揚州での滞在中には、冒襄（ぼうじょう）、鄧孝威（とうこうい）、杜宇皇（とぎょこう）、石濤（せきとう）ら、明朝滅亡後もなお理想を追い求める多くの文人たちと交流を深めました。彼らとの出会いは、孔尚任の創作活動に大きな影響を与えたと考えられています。

揚州での活動後、北京に戻った孔尚任は、戸部主事を経て戸部広東司員外郎にまで昇進しました。順風満帆な官僚人生を送る一方、創作活動にも力を注ぎ、1699年には彼の代表作である戯曲『桃花扇』を完成させます。1700年には官職を辞し、故郷である曲阜に戻りました。そして7年後、満を持して『桃花扇』を世に送り出しました。

『桃花扇』は、明末清初の動乱期を背景に、愛と運命、政治と芸術、そして人間の業を壮大なスケールで描いた作品です。その緻密な構成力、登場人物の深みのある描写、そして時代を反映した深い洞察力は高く評価され、清代演劇における最高傑作の一つとして、現在にまで語り継がれています。

孔尚任は、書画にも造詣が深く、董其昌（どうきしょう）、黄公望（こうこうぼう）、陳継儒（ちんけいじゅ）、王思任（おうしじん）、楊龍友（ようりゅうゆう）、倪瓚（げいさん）、王時敏（おうじみん）、夏雲鼎（かきゅうてい）らと共に「金陵九子（きんりょうくし）」と呼ばれる文人集団の一員にも数えられています。この集団は、明末清初の文化交流の中心地であった金陵（現在の南京）で活躍した、文人画や詩文の世界で名高い著名人たちから成り立っています。

晩年は故郷で過ごし、1718年に曲阜の自宅で生涯を閉じました。

孔尚任の著作には、『桃花扇』以外にも、「出山異数記」一巻や、詩文集「湖海集」十三巻などがあります。彼の作品は、後世の文人や芸術家たちに多大な影響を与え続け、現在でも高く評価されています。

孔尚任の生涯は、激動の時代を生きた文人の生き様を示すものであり、彼の作品は、その時代の歴史的背景と文化を深く理解するための貴重な資料となっています。そして、『桃花扇』は、単なる歴史劇としてだけでなく、人間の普遍的なテーマを深く探求した文学作品として、今日もなお多くの人々の心を捉え続けています。

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