宅香菜子

宅 香菜子

人物概要

宅 香菜子（たく かなこ）氏は、日本の心理学者であり、特に「心的外傷後成長（Posttraumatic Growth, PTG）」に関する研究分野のパイオニアとして、国内外で高く評価されています。長年にわたり、人が極めて困難な体験に直面した後、どのようにして心理的な回復を超えた肯定的な変容を遂げるのかという、人間のレジリエンスと成長の側面に焦点を当てた研究を展開しています。現在は、アメリカ合衆国ミシガン州に位置するオークランド大学の心理学部において、プロフェッサーとして教鞭を執りながら、最先端の研究活動を続けています。

心的外傷後成長（PTG）について

PTGは、深刻なストレスやトラウマとなる出来事を経験した人が、その苦難の過程を経て、心理的に、あるいは対人関係や人生観において、以前よりも肯定的な状態へと変化していく現象を指します。これは単に元の状態に戻る「回復」とは異なり、困難を乗り越えた結果として新たな強さや洞察を得る「成長」の側面を強調する概念です。宅氏の研究は、このPTGがどのようなメカニズムで起こりうるのか、そしてそのプロセスをどのように理解し、支援に繋げられるのかを深く探求しており、心理臨床の実践分野にも多大な影響を与えています。

略歴

宅氏の学術的なキャリアは、1991年に茗溪学園高等学校を卒業したことから始まります。その後、神戸大学教育学部にて教育学と心理学の基礎を学び、1996年に卒業しました。さらなる専門性の追求のため、千葉大学大学院教育学研究科の修士課程に進学し、1998年に修了。この間、心理学の研究に深く傾倒していきます。2000年には、心理専門職としての重要な資格である臨床心理士の資格を取得し、実践的な知識と技術も修得しました。研究者としての道を本格的に進むため、名古屋大学大学院教育発達科学研究科にて研鑽を積み、2005年に心理学の博士号を取得しました。博士号取得後、同年にアメリカ合衆国のノースカロライナ大学シャーロット校心理学部に客員研究員として招かれ、海外での研究活動を開始します。この経験が、その後の国際的な活躍の礎となりました。2008年には、現所属であるオークランド大学心理学部にアシスタントプロフェッサーとして着任。着実に研究業績を積み重ね、2014年にアソシエイトプロフェッサーに昇進し、さらに2020年には心理学部のプロフェッサー（教授）へと昇任しました。

研究活動と業績

宅氏は、PTG研究における世界的なリーダーの一人として、この分野の理論構築と実証研究の両面で重要な貢献を果たしています。その研究は、個人の性格特性、社会的サポート、文化的な要因などがPTGのプロセスにどのように影響するかを明らかにすることを目的としています。また、PTGの概念を災害被災者や患者など、様々な困難を経験した人々の支援に応用する可能性についても探求しています。研究成果は多くの査読付き論文として発表されており、国際的な学会での基調講演や招待講演も多数行っています。これらの活動を通じて、PTGという概念を広く普及させ、心理学における新たな研究潮流を確立する上で中心的な役割を担っています。

主要著作

宅氏は、PTG研究の成果をまとめた著作を複数刊行しており、これらは研究者や臨床家、そして一般の読者にとって貴重な文献となっています。

『心的外傷後成長ハンドブック: 耐え難い体験が人の心にもたらすもの』（医学書院、2014年1月）
PTGに関する包括的な理論と実践を解説した専門書であり、この分野を学ぶ者にとって不可欠な一冊です。
『悲しみから人が成長するとき―PTG』（風間書房、2014年4月）
PTGの概念を分かりやすく解説し、より広い読者層に向けてその重要性を伝えています。
* 『ＰＴＧの可能性と課題』（金子書房、2016年11月）
PTG研究の最新動向や今後の展望、そして残されている課題について深く掘り下げています。

これらの著作を通じて、宅氏はPTG研究の深化と普及に大きく貢献し続けています。

もう一度検索