宇宙赤外線背景放射

宇宙赤外線背景放射（CIRB）とは

宇宙赤外線背景放射（Cosmic Infrared Background; CIRB）とは、宇宙のあらゆる方向から降り注ぐ、微弱ながらも遍在する赤外線による背景放射のことを指します。これは、宇宙マイクロ波背景放射（CMB）や宇宙X線背景放射などと同様に、特定の天体から直接届く光ではなく、広大な宇宙空間全体から検出される「背景光」の一つです。CIRBは主に、私たちの銀河系である天の川銀河の円盤を避け、その「両極方向」にあたる領域で観測されます。これは、銀河系の円盤部に存在するダストなどからの強い赤外線放射の影響を避けるためです。CIRBの光は、数十億光年以上という極めて遠方の宇宙、すなわち宇宙の初期段階に起源を持つと考えられています。

放射源の探求

CIRBの起源については、まだ完全には解明されていませんが、最も有力視されているのは、宇宙誕生後まもない時期に誕生したとされる「第一世代の恒星群」や、それらが形成した初期の銀河からの放射です。これらの初期の恒星や銀河は、大量の紫外線などの高エネルギーの光を放出しました。この高エネルギー光が、周囲に存在していた星間物質（ガスや塵）に吸収され、星間物質が温められることで、そのエネルギーを赤外線として再放射したと考えられています。宇宙は膨張しているため、この初期宇宙で放出された赤外線は、光が地球に届くまでの長い旅の間に波長が引き延ばされ（赤方偏移）、現在の観測では主に赤外線として捉えられています。

理論との乖離と未解明の謎

CIRBの研究における最も重要な課題の一つは、観測されているその「強度」が、現在の宇宙論モデルや星形成理論に基づく予測を上回っている点です。理論モデルでは、観測されるべきCIRBの強度が計算されていますが、実際に観測されたCIRBは、この理論予測よりもかなり強いことが示されています。この乖離は、私たちの宇宙初期における星形成活動や物質分布に関する理解が、まだ不十分であることを示唆しています。

なぜ観測されるCIRBがこれほど強いのかについては、現在、複数の可能性が議論されています。一つ目の可能性として、初期宇宙における星間物質、特にダスト（塵）の量が、これまでの理論モデルで想定されていたよりも多かったのではないかという見方があります。ダストは恒星からの光を吸収して赤外線として再放射するため、ダストが多ければ多いほど、赤外線による背景光は強くなります。

二つ目の可能性として、宇宙のごく初期段階で、第一世代の星々が極めて短期間に集中的かつ爆発的な星形成活動を行ったというシナリオが考えられています。これらの第一世代星は非常に大質量で短命であったと推測されており、もし宇宙史のごく初期に、このような星々が一時的に大量に誕生し、莫大なエネルギー（主に紫外線）を放出した後、超新星爆発を起こして急速にその生涯を終えたのだとすれば、その際に放出された莫大なエネルギーが周囲の物質を温め、結果として観測される強い赤外線背景光の原因となったのではないか、という説が提唱されています。これは、現在の宇宙にあるような銀河が形成されるよりもさらに前の時代に、一時的に活発な「隠された」星形成期が存在した可能性を示唆します。

これらの議論は、CIRBが単なる背景光ではなく、宇宙の最も初期における恒星や銀河の形成、そして宇宙再電離期といった、宇宙史の重要な段階を解明する上で極めて重要な観測的手がかりであることを示しています。CIRBの詳細な性質を調べることは、宇宙の夜明けとも呼ばれる時代の謎に迫る上で不可欠な研究分野となっています。

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