安藤更生

安藤更生（あんどう こうせい）は、明治33年（1900年）6月10日に生まれ、昭和45年（1970年）10月26日に70歳でその生涯を終えた、日本の著名な美術史家です。本名は正輝といい、東京を故郷としました。

若い頃は早稲田中学で学び、東京外国語学校（現在の東京外国語大学）を卒業。その後、早稲田大学の仏文学科に進みましたが、昭和3年（1924年）に中途退学しています。彼の学問への探求は、高名な歌人であり書家、そして美術史家でもあった会津八一に師事したことから、さらに深まっていきました。

安藤は美術史研究の推進に情熱を注ぎ、大正12年（1923年）には奈良美術研究会を立ち上げました。この組織はやがて東洋美術研究会へと発展し、昭和4年（1929年）には研究誌『東洋美術』を創刊するなど、日本の東洋美術研究において重要な役割を果たしました。

昭和13年（1938年）には中華民国に渡り、新民印書館で勤務。この時期に彼が編集した『北京案内記』は、北京を紹介するガイドブックとして今なお高い評価を受ける名著として知られています。

戦後、安藤は早稲田大学で教授を務め、学問の普及に貢献しました。彼の研究対象は幅広く、日本の仏寺建築、中国美術、書道など多岐にわたりますが、中でも特に力を注いだのが鑑真（がんじん）の研究です。鑑真の生涯と日本への渡航に関する詳細な研究は彼のライフワークとなり、昭和29年（1954年）にはその成果をまとめた「鑑真大和上伝之研究」によって文学博士号を取得しました。この業績は高く評価され、後に井上靖がこれを基に小説『天平の甍』を執筆するきっかけともなりました。

また、岩手県平泉にある中尊寺に安置されている藤原氏のミイラの学術調査にも関与したことから、「ミイラ博士」というユニークな通称でも知られるようになります。

学術研究のみならず、安藤は幅広い分野で活躍しました。昭和6年（1931年）に発表した『銀座細見』は、昭和初期の銀座のカフェーなどを活写した風俗描写で、ベストセラーとなりました。しかし、この著作は師である会津八一から叱責を受けたというエピソードも残されています。昭和27年（1952年）には、瀧川政次郎らと共に地方史研究所の設立にも携わるなど、歴史研究の基盤整備にも貢献しました。

安藤更生は昭和45年（1970年）10月26日、肺癌と尿毒症のため70歳で逝去しました。彼の死後もその功績は語り継がれ、平成8年（1996年）5月には、彼の鑑真研究と井上靖の小説『天平の甍』に寄与した功績を称え、奈良の唐招提寺境内に顕彰碑が建立されました。

彼の著作は、『三月堂』、『日本のミイラ』、『書豪会津八一』など多岐にわたり、美術史、文化史、地域史研究に大きな足跡を残しています。また、中国の古典文学『西遊記』の翻訳や、数多くの論文、編集書物なども世に送り出しており、その学問的、文化的な貢献は計り知れません。安藤更生の多角的な活動は、日本の近代文化史において重要な一章を占めるものです。彼は、研究者としての厳密さと、時代を捉える広い視野、そして文化への深い愛情を持って、多くの人々に影響を与え続けました。

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