安部大就

安部 大就（あべ だいしゅう）

安部大就は、1938年（昭和13年）6月16日に広島県で生まれ、1998年（平成10年）9月6日に逝去した日本の傑出した造園学者です。その生涯は、大学での教育・研究活動、学会運営、そして行政への参画を通じて、緑地環境の質的向上と後進の育成に捧げられました。

学問への道と研究分野

安部氏は1963年に大阪府立大学農学部園芸学科を卒業後、同大学大学院で学び、1965年から母校の農学部緑地計画工学講座で助手として研究者としての第一歩を踏み出しました。その後、講師、助教授を経て、1987年には教授に昇任し、長年にわたり教鞭をとりました。また、関西大学や大阪市立大学などで非常勤講師も務め、造園学の普及と教育に努めました。

研究分野は緑地計画、景観工学、風致設計など多岐にわたりましたが、特に人間行動と緑地空間の関係性に着目した点が革新的でした。従来の緑地計画に不足していた人間側の視点を導入するため、1974年には「スペーズオーガナイゼーションを基調とした緑地計画に関する基礎的研究」として成果をまとめ、農学博士号（九州大学）を取得しました。この研究は、緑地計画分野に新たな視点をもたらし、その後の研究や実務に大きな影響を与え、日本造園学会賞（研究論文部門）受賞という栄誉にも繋がりました。

都市景観と景観生態学への貢献

安部氏の研究は、都市環境の質が問われるようになった昭和50年代以降、特に都市景観の分野で顕著な貢献をしました。都市景観の質を人間と環境の有機的な関係性から定義し、複雑な都市の景観計画には行動科学的な手法が不可欠であると考え、その計画理論の構築に取り組みました。この理論展開は、今日の都市景観行政の基礎を築く上で重要な役割を果たしています。

さらに、人間活動と自然環境の持続的な調和が求められるようになった昭和60年代から平成初期にかけては、景観を地域の自然と人間社会が相互に関わり合って生まれる「総体」として捉え、景観問題を生態学的な視点から解決するための計画技術開発を進めました。この研究では、当時まだ黎明期であったコンピュータ・グラフィックスを研究ツールとしていち早く導入するなど、常に最先端の技術を取り入れる探求心を持ち続けていました。

学会活動と社会貢献

教育・研究活動と並行して、安部氏は日本造園学会の運営に深く関わりました。評議員、理事、常務理事を歴任し、1995年には会長に就任し、学会の発展に貢献しました。また、国際造園家協会（IFLA）の日本代表として、1990年には国際担当の常務理事に就任するなど、日本の造園学を国際的に広め、交流を深める活動にも尽力しました。

学外では、大阪府の公園、農林、建築、都市、文化といった幅広い行政分野において、専門家として貢献しました。兵庫県都市計画地方審議会や神戸市公園緑地審議会、堺市都市計画審議会をはじめとする様々な地方自治体の委員を務め、緑や景観に関わる政策立案や推進に深く関与しました。

主な受賞歴

1976年度 日本造園学会賞
1997年度 公園緑地北村賞
* 1998年度 正四位勲三等瑞宝章

安部大就氏の功績は、緑地計画や都市景観分野における理論的な深化、革新的な研究手法の導入、そして教育者・学会人・社会貢献者としての多角的な活動に及びます。その知見と情熱は、現在のランドスケープデザインや環境計画を学ぶ者にとって、今なお多くの重要な示唆を与えています。

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