官尊民卑

官尊民卑とは

官尊民卑（かんそんみんぴ）は、国家や政府の権威を重んじ、一般市民の価値を低く見るという考え方を指します。この概念は福沢諭吉によって提唱されたものであり、彼の著作の中で頻繁に取り上げられました。官尊民卑は、特に日本において、政府や官僚機構の影響力が強い中で、民間の権利や尊厳が軽視される状況を示す言葉として用いられています。

概要

『日本国語大辞典』によると、官尊民卑は「政府や官吏が尊重され、一般の人々が軽視される考え」と定義されています。福沢は、彼の著作『福翁百話』においてこの考えを批判し、「吾々学者流に於ては人権平等の論を論ずること久し」と述べています。彼は、官尊民卑の思想が人権の平等に反するものであると指摘し、官尊民卑の打破を目指す学者の使命を説きました。

渋沢栄一もまた、官尊民卑の弊害を指摘しています。彼は、官の立場にある者が不都合を働いても多くの場合は見過ごされることに不満を述べ、逆に民間の功績が評価されにくい状況を批判しました。このような観点から、彼の意見は官尊民卑が如何にして社会に浸透しているかを示す重要な証言となっています。

具体例

叙勲制度

日本の叙勲制度においては、依然として職業による格差が存在します。具体的には、官僚や国会議員などの職業にある者がより高い勲章を受ける傾向があり、警察官や消防官などは最も低位の評価を受けがちです。このように、受勲者間における職業のヒエラルキーが官尊民卑の典型的な現れとされています。小川賢治はこの点を指摘し、長年にわたる地域社会への貢献が評価されることなく、非選挙の自治体幹部が優遇されている現実があると述べています。

私立学校への差別

また、教育の分野においても官尊民卑は顕著です。明治18年の徴兵令改正では、官立学校に通う生徒に特典が与えられ、私立学校の生徒は何の恩恵も受けられませんでした。福沢諭吉は、この不平等を強く批判し、官立の学校を通じて学位や名誉を得る一方で、私立学校には社会からの評価が乏しい現状を指摘しました。現代においても、日本の私立大学生は国立大学生に比べて公的財政支出が著しく低く、納税者間の不平等が生じています。この点に関して、日本私立大学協会は古い官尊民卑の感覚が未だに存在していると批判しています。

公務員の現状

公務員の給与や待遇も官尊民卑の一要素として批判されています。公務員の給与が民間に比べて高いことから、官民格差が生じているという意見があります。さらに、障害者雇用に関する問題も、政府が民間企業に対して義務を課しつつ、自らは採用を怠っていることが「官尊民卑的」な考え方を反映していると指摘されています。

まとめ

官尊民卑は、福沢諭吉による批判から始まった日本の社会における重要な概念であり、現代においても様々な形で影響を及ぼしています。特に官が民を重んじず、逆に民が官に対して不遇な扱いを受けるという状況は、社会の進歩の妨げとなっています。この考え方の批判や見直しは、今後の社会において重要なテーマとなるでしょう。

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