宝塚尼崎電気鉄道

宝塚尼崎電気鉄道：夢半ばに終わった鉄路と、その後の姿

兵庫県尼崎市と宝塚市を結ぶことを目指した宝塚尼崎電気鉄道（通称：尼宝電鉄）は、1920年代に計画され、建設が進められたものの、開業することなく歴史の闇に消えた未成線です。しかし、その計画と建設、そしてその後辿った道のりは、当時の交通事情や地域開発、企業間の競争といった様々な要素が複雑に絡み合った興味深い物語を私たちに伝えています。

計画から建設へ：競争と困難

1922年、尼宝電鉄の建設計画が持ち上がりました。地元の有力者たちが発起人となり、阪神出屋敷駅と宝塚を結ぶ路線の建設を目指しました。当時、武庫川の改修工事が行われており、その東岸を利用したルートが計画されました。

この計画にいち早く目をつけたのが、阪神電気鉄道でした。阪急電鉄の神戸線開業に対抗するため、宝塚への路線進出を図っていた阪神は、尼宝電鉄に出資し、事業を支援することにしました。

しかし、尼宝電鉄の計画は、最初から順風満帆ではありませんでした。当初のルートは、阪神電鉄の計画路線と交差するため、阪神尼崎駅を起点に伊丹市街地を通るルートに変更が申請されました。しかし、この変更は、阪急電鉄の伊丹線に近接することになり、両社間の競争が激化しました。激しい軌道特許申請合戦の末、尼宝電鉄は当初計画の中間地点付近を通るルートに変更し、ようやく施行認可を得ました。

1927年末までに、路線の大部分が完成しました。しかし、尼崎側では都市計画との調整が難航し、高架建設の要求が出されました。宝塚側では、国鉄宝塚駅への接続問題が工費高騰を招き、建設が遅れました。高架化は阪神本線との直通運転を困難にするため、尼宝電鉄の存在意義に関わる問題でした。

開業断念とバス路線への転換

開業は困難と判断した尼宝電鉄は、1929年に開業延期を申請し、既存の路盤を利用したバス路線の開設に転換します。しかし、路盤敷のままではバス営業が認められなかったため、自動車専用道路への改築申請を行い、舗装工事を完了させました。しかし、資金不足によりバスを購入することができず、1932年、阪神国道自動車（現在の阪神バス）に吸収合併されました。鉄道免許は失効し、自動車専用道路は完成しました。

県道尼宝線への生まれ変わりと現在

阪神国道自動車が建設した自動車専用道路は、後に兵庫県に買い上げられ、現在の兵庫県道42号尼崎宝塚線、通称「尼宝線」となりました。現在も尼崎と宝塚を結ぶバス路線が運行されており、阪神バスだけでなく、伊丹市営バスや阪急バスも運行しています。尼宝電鉄の夢は、形を変えながらも、現在も人々の生活を支えています。

延長線計画：未実現の野望

尼宝電鉄は、宝塚と尼崎を結ぶ路線以外にも、時友付近から東西への延長線を計画していました。この路線は、現在の国道171号付近を通る計画で、大阪市をショートカットして京都市と神戸市を結ぶことを目指していました。しかし、この計画は実現しませんでした。

まとめ

宝塚尼崎電気鉄道は、開業には至らなかったものの、その計画と建設、そしてその後辿った道のりは、日本の近代化における交通発展の一端を示すと共に、企業間の競争や地域開発の複雑な過程を示す貴重な事例です。未成線として終わったものの、その痕跡は「尼宝線」として現在も私たちの身近に存在し、歴史の重みを私たちに感じさせてくれます。 未完成のまま残された路盤は、実現しなかった未来への想像力を掻き立て、当時の熱気を今に伝えています。

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