宝石細工師の肖像

『宝石細工師の肖像』

ヤコポ・ダ・ポントルモによる『宝石細工師の肖像』は、1517年から1518年頃に制作された油彩の肖像画です。この作品は、画家の初期を代表する重要な作品の一つとされています。モデルとなった人物は特定されていませんが、宝石細工師であると推測されています。現在、この作品はフランスのルーヴル美術館に所蔵されています。

作品の特徴

この作品は、ポントルモが手がけた初期の肖像画の一つと考えられており、師であるアンドレア・デル・サルトの影響が色濃く見られます。しかし、ポントルモ独自の画風も垣間見え、渋い色彩の中にも人物の生気が感じられます。宝石細工師だと考えられる根拠は、彼が手にしているビュラン（彫刻刀）と、テーブルの上に置かれた宝石を埋め込むための金属板です。

過去には、モデルの人物をフィレンツェの著名な細工師であるジョヴァンニ・デッレ・コルニオーレ、ミケーレ・ディ・パオロ・ポッジーニ、ドメニコ・ディ・ポーロなどの名前が挙げられてきましたが、現在ではいずれも否定されています。モデルの人物は、作業に没頭していた最中に、何かに気づき顔を上げた瞬間が描かれており、その一瞬の表情が捉えられています。

絵の大部分を占める衣服の質感や、スポットライトのような光の演出は、作品全体に新鮮な印象を与えています。モデルの人物からは、職人的な一徹さと神経質な印象、そして孤独感が入り混じった独特の雰囲気が感じられます。また、地味な色調の衣服や黒い帽子は、当時の市民や職人の風俗を反映していると考えられます。

この作品は、ポントルモの初期の画風を理解する上で重要なだけでなく、当時の社会や職人の生活を垣間見ることができる貴重な資料としても評価されています。

参考文献

ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
坂本満 責任編集『NHKルーブル美術館VI ルネサンスの波動』、日本放送出版協会、1986年刊行　ISBN 4-14-008424-3

外部リンク

* ルーヴル美術館公式サイト、ヤコポ・ダ・ポントルモ『宝石細工師の肖像』 (フランス語)

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