実吉安純

実吉安純（さねよしやすずみ）は、明治から昭和初期にかけて日本の医学、海軍、そして政治の世界で重要な役割を果たした傑物です。1848年（嘉永元年）に薩摩藩士の家に生まれ、戊辰戦争を経て医学の道へ進みます。順天堂、大学校で学びを積み重ね、明治4年（1872年）には海軍病院分課に勤務を開始。以後、海軍軍医として着実にキャリアを積んでいきます。

海軍軍医としての彼の経歴は輝かしいものです。大阪丸乗組、海軍医務局学舎長を経て大軍医に昇進。西南戦争にも従軍し、その経験は彼の軍医としての能力をさらに高めました。その後、イギリスへ留学し、ロンドンの名門病院である聖トマス病院医学校で研鑽を積みます。帰国後は軍医中監、海軍軍医学校教授、そして校長へと昇進し、海軍医学の発展に貢献しました。さらに、警察医長も兼務するなど、多忙な日々を送りました。1891年には医学博士号を取得。その高い医学的見識は、後進の育成にも生かされました。

海軍省医務局長、大本営海軍医務部長などの要職を歴任し、組織運営にも手腕を発揮しました。特に、高木兼寛と共に取り組んだ海軍における脚気撲滅事業は、彼の大きな功績の一つです。当時、脚気は海軍の大きな問題でしたが、実吉は徹底的な対策を推進し、その克服に大きく貢献しました。

軍医としての功績だけでなく、政治家としての活動も目覚ましいものがありました。日清戦争、日露戦争での功績により、男爵、子爵に叙せられ、貴族院議員として国の政策決定にも参画します。また、東京慈恵会医院専門学校（現在の東京慈恵会医科大学）の校長を務めるなど、教育界にも貢献しています。日本赤十字社評議員、日本医師共済生命保険社長など、多様な組織で指導的な役割を担っていました。

このように、実吉安純は海軍軍医、医学者、政治家として、多岐にわたる分野で活躍しました。彼の活動は、日本の近代化に大きく貢献したと評価できます。医学の進歩、海軍の近代化、そして国の発展に生涯を捧げた実吉安純の功績は、今なお高く評価されています。

彼の私生活についても触れておきましょう。彼は実吉安福の二男として生まれ、古屋謙の二女と結婚しました。彼の家族は、医学、海軍、そしてビジネス界など様々な分野で活躍しました。長男の純郎は東京慈恵会医科大学教授、五男の雅郎は日揮株式会社の創設者、六男の捷郎はドイツ文学者、八男の金郎は海軍技師であり東京大学工学部教授として活躍しました。孫や曾孫の世代にも、動物学者、シンガーソングライター、生化学者、医学部教授など、各分野で才能を発揮する人物が輩出しています。

彼の業績を裏付ける資料として、秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』第2版、外山操編『陸海軍将官人事総覧 海軍篇』、福川秀樹『日本海軍将官辞典』、千田稔『華族総覧』などが挙げられます。これらの文献は、実吉安純の生涯と功績をより深く理解する上で貴重な資料となるでしょう。

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