実行時コンパイラ

実行時コンパイラ（JITコンパイラ）とは

実行時コンパイラ（Just-In-Timeコンパイラ、JITコンパイラ）とは、プログラムの実行中にソースコードをコンパイルするコンパイラのことです。通常のコンパイラは、プログラム実行前にソースコードを機械語に変換しますが、JITコンパイラは、プログラム実行中に必要な部分だけをコンパイルします。この方式は、プログラムの実行速度を向上させるとともに、特定の実行環境に最適化されたコードを生成できるという利点があります。

JITコンパイラの仕組み

JITコンパイラは、プログラムのモジュール、クラス、関数などが実際に実行されるタイミングで、そのコードを機械語にコンパイルします。「Just In Time（まさにその時）」という名前は、この特徴に由来します。

JITコンパイルは、動的コンパイルの一種です。動的コンパイルは、実行時に機械語を生成するより広い概念であり、JITコンパイルはその一形態となります。

JITコンパイラの利点

JITコンパイラの主な利点は、以下の通りです。

1. プラットフォーム非依存性: ソースコードや中間コードでソフトウェアを配布できるため、オペレーティングシステムやCPUに依存しません。
2. 実行速度の向上: インタプリタ方式のように毎回コードを解釈するのではなく、コンパイルされた機械語を実行するため、実行速度が向上します。
3. 実行環境に応じた最適化: JITコンパイラは、実行時のCPUやメモリの情報を利用して、最適なコードを生成できます。例えば、CPUが特定の命令セット（MMXなど）をサポートしている場合、その命令を使ったコードを生成できます。また、キャッシュやメモリのサイズなどの情報も利用して、最適なコードを生成できます。
4. 仮想メソッド呼び出しの最適化: オブジェクト指向言語では、仮想メソッドの呼び出しは間接的になりますが、JITコンパイラは、オーバーライドがない場合、直接呼び出しやインライン展開を行うことができます。

JITコンパイラの欠点

JITコンパイラには、以下のような欠点も存在します。

1. コンパイル時間のオーバーヘッド: 事前コンパイルと比較して、JITコンパイルはプログラムの実行時間に追加のオーバーヘッドをもたらします。
2. 高度な最適化の制限: 事前コンパイルで可能な高度で時間のかかる最適化を、JITコンパイラでは実行できません。

適応的コンパイル

適応的コンパイルは、JITコンパイラの欠点を補うための手法です。この方式では、プログラムの起動時にはインタプリタとして実行し、繰り返し実行されるコードを検出（プロファイリング）します。その後、検出された頻繁に使用されるコードのみをコンパイルします。この遅延コンパイルによって、起動時のオーバーヘッドを抑えつつ、実行速度を向上させることができます。

プログラム実行時間の大半は、ごく一部のコードに費やされるという経験則（80-20の法則）に基づき、適応的コンパイルでは、そのようなコードのみをコンパイルすることで、効率的にパフォーマンスを向上させることができます。

適応的最適化は、静的コンパイルでは得られない情報を基に最適化を行うため、場合によっては静的コンパイルよりも優れたパフォーマンスを発揮することがあります。ただし、バッチ処理のような短時間で終了するジョブでは、JITコンパイルのオーバーヘッドが問題になることがあります。

JITコンパイラの応用

JITコンパイラは、JavaやJavaScriptなどのさまざまな環境で広く利用されています。

JavaのJITコンパイラ

Javaの普及に伴い、JITコンパイラは広く使われるようになりました。JavaのHotSpot技術は、Self言語の動的コンパイル技術研究に基づいており、初期の商用SmalltalkでもJITコンパイル技術が確立されていました。

HotSpotコンパイラ以降、JITコンパイラ部分のインターフェースが規定され、JITコンパイルエンジン部分を差し替えることが可能になりました。

JavaScriptのJITコンパイラ

近年の主要なウェブブラウザは、JavaScriptのエンジンにJITコンパイラを搭載しており、JavaScriptの高速処理を実現しています。

JITコンパイラによって、実行時に変数に代入された値の統計データから変数の型を割り振ることで、JavaScriptの処理速度を大幅に向上させることが可能になりました。

まとめ

JITコンパイラは、プログラムの実行中にコードをコンパイルすることで、実行速度の向上や実行環境に応じた最適化を可能にする技術です。適応的コンパイルなどの技術と組み合わせることで、さらに効果的なパフォーマンスの向上が期待できます。一方で、コンパイル時間のオーバーヘッドや最適化の制限といった課題も存在するため、適切な状況でJITコンパイラを利用することが重要です。

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