宮崎富次郎 (二代)

大正から昭和にかけて活躍した日本の実業家、二代目宮崎富次郎は、多方面にわたる才能を発揮した人物です。1909年（明治42年）6月23日に生を受け、1970年（昭和45年）3月20日に逝去しました。実業家としては、戦前期に宮崎航空工業の社長を務め、戦後には現在の株式会社ティラドである東洋ラジエーターの経営を担いました。また、刀剣の鑑定家としても著名な存在であり、日本の文化史においてもその名を刻んでいます。私生活では、世界的なアニメーション監督である宮崎駿氏を甥に、現在のティラド代表取締役CEO兼COO社長執行役員である宮崎富夫氏を孫に持つという、著名な系譜の一員でした。

東京都に生まれた宮崎富次郎氏は、宮崎製作所の代表を務めていた初代宮崎富次郎氏の長男です。父の背中を見て育ち、実業界への道を志しました。1933年（昭和8年）に米沢高等工業学校を卒業後、愛知時計電機株式会社に入社し、技術者としての経験を積みました。

若くして大きな転機が訪れます。22歳の時、父である初代富次郎氏の急逝により、宮崎航空工業の社長職を継承することになりました。当時は日本が戦争へと向かう緊迫した時代であり、航空機産業は国の根幹を支える重要産業でした。富次郎氏はその重責を若くして担い、困難な状況下においても、終戦によって会社が解散するまで経営者としての責務を全うしました。

終戦後、航空産業が解体される中で、富次郎氏はその経営手腕と技術的知見を活かし、新たな活躍の場を見出します。1949年（昭和24年）、彼は東洋ラジエーター株式会社（現在のティラド）に専務として迎えられました。戦後復興が進む日本では、自動車産業が急速に発展しており、ラジエーターは自動車に不可欠な部品でした。富次郎氏は同社の発展に尽力し、1957年（昭和32年）4月には代表取締役社長に就任します。社長として、東洋ラジエーターを日本の自動車産業を支える主要企業の一つへと成長させることに貢献しました。

宮崎富次郎氏は、実業家としてだけでなく、文化人としても特筆すべき功績を残しています。特に刀剣、とりわけ刀の鍔の鑑定家として高く評価されていました。刀剣美術に対する深い愛と専門知識を持ち、江戸時代の鍔の名工として知られる奈良三作の一人、土屋安親（つちややすちか）に焦点を当てた研究書『土屋安親の生涯と作品』を著しました。この著作は刀剣美術界に大きな反響を呼び、彼の鑑定家としての地位を揺るぎないものとしました。また、学生時代には意外な一面も持ち合わせていました。米沢高等工業学校在学中、彼は音楽部に所属し、米沢ののどかな風景の中でコーラスの指揮を執るなど、芸術的な感性も豊かでした。

宮崎家の系譜は、日本の産業界や文化界に広く根を下ろしています。父は宮崎製作所の代表を務めた初代富次郎、母は安達菊松氏の四女である千代子氏です。妻のかずゑ氏は、三井系炭鉱会社の元重役の親戚にあたり、1949年にはその親戚から譲り受けた歴史ある別荘を買い取っています。この別荘は、かつて大磯にあった黒田家邸を和田義盛公別邸跡に移築したもので、現在は旅館「元湯・陣屋」として営業しています。富次郎氏の子供たちもそれぞれの分野で活躍しました。長女の邦子氏は、成城学園文科を卒業後、アトリエ山桃の館長を務め、日本画を平山郁夫氏に師事しました。長男の総一郎氏は、早稲田大学理工学部機械科を卒業後、父と同じく東洋ラジエーターの社長を務めました。さらに、総一郎氏の子息である宮崎富夫氏は、慶應義塾大学大学院修士課程を修了後、現在のティラドのトップとして経営を担っています。そして、富次郎氏の弟である勝次氏の次男が、世界的に有名なアニメーション映画監督である宮崎駿氏です。このように、二代目宮崎富次郎氏は、実業家としての功績に加え、文化や芸術分野においても深い関わりを持つ豊かな系譜の中心人物であったと言えるでしょう。

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