宮崎忠次郎

宮崎忠次郎とは

宮崎忠次郎（1832年 - 1870年）は、明治時代初期に越中（現在の富山県）で発生した大規模な農民一揆「ばんどり騒動」を指導した人物です。彼は、農民たちの年貢減免を求める強い意志を背景に、一揆を組織し、その中心人物として活躍しました。

生い立ちと出自

宮崎忠次郎は、天保3年（1832年）に越中新川郡塚越村（現・富山県中新川郡立山町塚越）で、初代忠次郎の長男として生まれました。彼の家系は、塚越八幡社の顕彰碑によれば、「勤王の志士宮崎時範」の子孫とされています。このことは、井上江花の著作にも記されており、忠次郎が地域の名士の血筋を引いていることを示唆しています。

ばんどり騒動での活躍

明治2年（1869年）10月から11月にかけて、忠次郎は同郡内で発生した「ばんどり騒動」を主導しました。この一揆は、年貢の減免などを要求するもので、農民を中心に約2万5000人もの人々が参加しました。一揆勢は、十村の家など42軒を打ち壊すなど激しい行動に出ましたが、加賀藩の鎮圧部隊によって制圧され、忠次郎自身も金沢で処刑されました。この騒動は、明治維新後の社会不安を背景に、農民たちの不満が爆発した出来事として知られています。

死後の顕彰

忠次郎の処刑後、彼の十周忌にあたる明治13年（1880年）には、「宮崎忠次郎久明塚」が建立されました。この塚は後に塚越八幡社に移され、顕彰碑「義人之碑」とともに、今日まで彼の功績を称えています。彼は、地域の人々から「義人」として敬われ、その勇気と行動は長く語り継がれています。

忠次郎の行動における矛盾

忠次郎は今日「義人」として称えられていますが、その行動には首を傾げたくなる点も多く存在します。

「忠次郎大明神」の異名

一揆の際、忠次郎は駕籠に乗り、「忠次郎大明神」と大書した旗を掲げていました。この神号は他の一揆でも使用例があるものの、指導者が駕籠に乗る例は非常に珍しいとされています。この行為は、彼のユーモラスな側面を表すと同時に、「何を思い上がっているのか」という批判も招くものでした。

饗応と略奪

忠次郎は、打ち壊しを恐れる十村や富商からの貢物を受け入れ、酒食を伴う饗応にも応じていました。泊村の富商・小沢屋では、家人一同が礼装で出迎え、金屏風を立てた席で手厚くもてなされました。この様子を見た医師・細川玄庵は、「一国の君主が来訪したかのようだった」と証言しています。また、一揆軍は行く先々で略奪も行っており、これらの行動は、彼の「義人」という評価とは相容れないものでした。

十村公選制と榎本武揚との関係

忠次郎は、一揆の初期段階において十村公選制を要求しました。この背景には、榎本武揚が函館で樹立した「函館共和国」の影響があるという見方があります。しかし、忠次郎は榎本が函館に上陸する前に帰郷しているため、この影響は考えにくいとされています。一方で、地元住民の間では、忠次郎と榎本の間に交流があったという噂も存在しています。この点は、今後の研究で明らかになることが期待されます。

まとめ

宮崎忠次郎は、「ばんどり騒動」を指導した人物として、地域の人々から「義人」として尊敬されています。しかし、彼の行動には多くの矛盾が存在し、その評価は一面的ではありません。彼の生涯を理解するためには、彼の行動の背景にある複雑な社会状況と、彼自身の多面性を考慮する必要があります。今後の研究によって、彼の真の姿がさらに明らかになることが期待されます。

参考文献

井上江花『江花叢書第11巻 塚越ばんどり騒動』江花会、1933年3月。
玉川信明『越中ばんどり騒動 明治維新と地方の民衆』日本経済評論社、1985年3月。

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