宮川左近

「宮川左近」は、浪曲界にその名を刻む由緒ある名跡です。初代から数えて4代にわたり優れた浪曲師たちがこの名を継承してきましたが、現在は残念ながら受け継ぐ者がなく、空き名跡となっています。それぞれの宮川左近は、時代の波に乗り、独自の芸を開花させ、多くの聴衆を魅了しました。

初代 宮川左近

その最初の担い手は、九州の地から現れました。詳細はあまり伝わっていませんが、彼は特に九州一帯で絶大な人気を誇り、後の宮川左近につながる礎を築いたとされています。

二代目 宮川左近

明治7年（1874年）に長崎で生まれた二代目、本名を高見仁三郎といいます。幼い頃から浪曲に親しみ、初代が九州で隆盛を誇っていた時期にその門を叩きました。二代目は、その全盛期において、当時としては極めて珍しい海外在留邦人向けの慰問公演を敢行するなど、国際的な活動も行いました。しかし、晩年には病により喉を痛め、浪曲から節劇へと活動の中心を移さざるを得なくなりました。彼が得意とした演目には、『田宮坊太郎』などがあります。大正6年（1917年）9月3日にその生涯を閉じました。

三代目 宮川左近

大正7年（1898年）7月13日に長崎県佐世保市で生まれた三代目、本名は富永富一です。彼はもともと佐世保鎮守府に勤務していましたが、京山若丸による「乃木将軍」の口演に深い感銘を受け、浪曲師への道を志しました。大正4年（1915年）に二代目の弟子となり、「左近丸」を名乗って修業を開始。わずか2年後の大正6年（1917年）には、師である二代目の死去に伴い、異例の速さで三代目を襲名しました。初めは九州を拠点に活動していましたが、後に名古屋に進出。この時期は、初代松風軒栄楽と人気を二分する存在となり、「二枚看板」として全国各地を巡業しました。その後は、浪曲の中心地である関東や上方の寄席にも進出し、活躍の場を広げました。彼が得意とした演目には、『召集令』や『乃木将軍』などがあり、これらの演目を収めたSPレコードも吹き込んでいます。また、後の内閣総理大臣である田中角栄氏が三代目の大ファンであり、その芸をしばしば真似ていたという逸話も残っています。昭和13年（1938年）9月21日に逝去しました。

四代目 宮川左近

大正14年（1925年）1月20日に北海道函館市に生まれた四代目、本名は佐久間利三です。彼は少年時代に故郷で「天才少年民謡歌手」として注目され、本名で民謡一座に加わり、当時の三橋美智也氏と並ぶほどの人気を博したと伝えられています。浪曲師としての名跡は昭和25年（1950年）に襲名しましたが、彼の活動で最も広く知られているのは、浪曲と漫才を融合させた「宮川左近ショー」のリーダーとしての活躍でしょう。この形式で、彼は多くのファンを獲得しました。四代目は自ら台本も手掛けるなど、クリエイティブな面も持ち合わせていました。随筆集『浪曲半世紀』の執筆も進めていましたが、残念ながら健康を損ねたため中断され、未完のままとなりました。彼の弟子には、宮川大助氏や宮川青丸氏らがいます。また、実子である富永豊一氏はアコーディオン奏者として活躍しています。昭和61年（1986年）9月21日に亡くなりました。

四代目の没後、「宮川左近」の名跡は現在まで受け継がれていません。しかし、それぞれの代が残した足跡は、日本の大衆芸能である浪曲の歴史において重要な位置を占めています。

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