富久千代酒造

富久千代酒造：小規模蔵から世界へ羽ばたいた「鍋島」の物語

佐賀県鹿島市に拠点を置く富久千代酒造は、年間生産量400石ほどの小規模な酒蔵です。しかし、その名は、日本酒の世界では知らない人がいないほど有名です。その理由は、主力銘柄である「鍋島」の圧倒的な人気と、数々の受賞歴にあります。

大正時代からの歴史と「鍋島」誕生

富久千代酒造の歴史は、大正時代にまで遡ります。創業時の社名は「盛寿」でしたが、戦後、「千代に栄えて福きたる」という願いを込めて「富久千代」と改称されました。当初は「富久千代」や「泉錦」といった銘柄を生産していましたが、1987年、3代目蔵元である飯盛直喜氏が、酒販規制緩和後の厳しい市場環境を予測し、新たな戦略を打ち出します。地元の小売店と連携し、新商品の開発に着手したのです。

3年の歳月をかけて、満を持して誕生したのが「鍋島」です。その名前は一般公募で決定され、鍋島家の子孫からの許可も得ています。しかし、発売当初は思うように販売が伸び悩み、既存銘柄からのシフトは売り上げの急激な減少を招き、存続の危機にすら瀕しました。

飛躍のきっかけと「鍋島」の成功

転機が訪れたのは2002年。第14回国際酒祭りin TOKYOの純米酒部門で「鍋島」が日本一に輝いたのです。その後も、全国新酒鑑評会で7年連続金賞を受賞するなど、高い評価を獲得し続けました。そして2011年、インターナショナルワインチャレンジで「鍋島」の特別純米酒と大吟醸酒が金賞を受賞。さらに、大吟醸酒は最高賞である「チャンピオン・サケ」を獲得するという快挙を成し遂げました。

「鍋島」は、特約店のみで販売されており、蔵元での販売やネット販売は行っていません。この希少性も、ブランド価値を高める一因となっています。

文化財としての蔵とデザイン賞受賞

2004年には、富久千代酒造の蔵の一部が国の登録有形文化財に登録されました。寄棟造、桟瓦葺きの一号蔵、精米所、麹室がその対象です。特に精米所は、2014年に試飲のできるギャラリーとして改装され、2016年にはグッドデザイン賞を受賞するなど、伝統と革新が融合した空間となっています。

まとめ

富久千代酒造は、小規模蔵ながら、独自の戦略と高品質な酒造りで、世界的な評価を獲得した稀有な存在です。「鍋島」というブランドは、その歴史と努力の結晶と言えるでしょう。登録有形文化財にも指定された蔵は、日本の伝統と技術が息づく貴重な場所であり、訪れる価値のある観光スポットでもあります。 今後、富久千代酒造がどのような新しい挑戦をしていくのか、注目したいところです。 酒蔵のある鹿島市浜中町八本木宿は、国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されており、「酒蔵通り」として魅力的な観光地となっています。

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