富士ビル壁崩落事故

2003年3月13日、静岡県富士市吉原二丁目（吉原商店街）で発生した、解体工事中のビル外壁崩落事故について解説します。事故現場となったのは、旧「富士ショッピングデパートヤオハン」のビルでした。

事故概要

解体工事中のビルの外壁が崩落し、車道へ落下。その際、外壁や鉄骨など総重量約37トンの落下物が、信号待ちをしていた乗用車2台を直撃しました。この事故により、乗車していた2名と作業員2名の計4名が死亡、2名が重軽傷を負うという痛ましい結果となりました。

事故原因は、外壁が崩落する危険があったにも関わらず、適切な転落防止措置を講じずに工事を行ったためです。現場責任者3名が業務上過失致死傷罪で起訴され、実刑判決が下されました。

事故の背景

事故現場となった旧ヤオハンビルは、1969年に4階建てのビルとして落成後、1974年に5階以上が増築され7階建てとなっていました。増築部分は鉄骨造で、壁は発泡コンクリート（ALC）板を嵌め込んだ比較的簡易な構造であり、4階部分までとは工法が異なっていました。

主要テナントの八百半デパート吉原店が1994年に撤退後、ビルは空きビルとなっていましたが、市街地再開発事業の一環として、分譲マンション兼店舗ビルへの建て替えが決定。2002年10月より解体作業が開始されました。

解体工事の経緯

解体工事は木内建設が請け負い、一次下請けとしてフジウンノ（現・イーシーセンター）、二次下請けとして渡辺合金（現・大栄産業）が関わっていました。しかし、当初から工期が厳しい状況であり、下請け業者の変更なども重なり、工事は遅延していました。

事故発生時の状況

事故当日、現場では23名が作業に従事しており、5階の外壁を撤去する作業が行われていました。崩落した外壁部分は、南西側の柱よりも外へ約1.5メートル張り出しており、2本の鉄骨柱のみで支えられた「片持ち梁構造」となっていました。周囲の構造物が解体除去されたことで、南西側外壁部分は左右の構造部分との連結が断たれ、不安定な状態となっていました。

外壁の解体手順としては、最上階の7階から順に、ワイヤで引き倒す工法が採られていましたが、事故当時、鉄骨柱にはワイヤが繋がれていたものの、固定されていませんでした。本来、現場責任者は転倒防止措置を講じるべき義務がありましたが、怠ったまま作業が進められました。

事故発生

15時30分頃、南西側外壁部分を支える鉄骨柱に過大な荷重が作用し、外壁が吉原本町通りへ崩落。落下物により、信号待ちで停車していた乗用車2台が下敷きとなり、4名が死亡、2名が重軽傷を負うという大惨事となりました。

事故後の対応

事故発生後、静岡労働局は重大災害対策本部を設置し、対策と調査を開始。富士市は工事の事業主体と請負業者に対し、工事停止命令を出しました。警察も業務上過失致死傷容疑で現場検証を開始し、国土交通省も現地調査を行いました。

国土交通省は本事故を受け、「建築物の解体工事における外壁の崩落等による公衆災害防止対策に関するガイドライン」を策定しました。しかし、ガイドラインには強制力がなく、類似の事故が度々発生しています。

刑事裁判と行政処分

警察は解体工事の現場責任者3名を業務上過失致死傷罪で逮捕。静岡地方裁判所は、2005年 1月28日にZに禁錮1年8月、XとYに禁錮1年6月の実刑判決を言い渡しました。

また、国土交通省と静岡県は、木内建設・フジウンノ・大栄産業に対し、建設業法に基づき営業停止の監督処分を行いました。

事故の影響

本事故は、地元住民に大きな衝撃を与え、地域経済への影響も懸念されました。事故後、再開発計画は大幅に遅れましたが、2005年8月には再開発ビル「ラクロス吉原」が完成しました。

現在の課題

富士ビルの事故から年月が経過しましたが、現在も類似の事故が発生しています。ガイドラインの遵守徹底とともに、法規制を含めたより強制力のある安全対策の必要性が指摘されています。

参考資料

- 裁判の判決文
- 静岡地方裁判所刑事第1部判決 2005年（平成17年）1月28日
- 国土交通省の資料
- 建築物の解体工事における外壁の崩落等による公衆災害防止対策に関するガイドラインについて - 国土交通省

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