富岡幸雄

富岡幸雄氏（1925年3月20日生、2023年3月4日没）は、日本の租税学界において顕著な功績を残した研究者であり、中央大学名誉教授の肩書きを持つ。特に、日本ではじめて実施された税理士試験の合格者の一人であり、「税理士第一号」と称されることもあるパイオニア的存在として知られている。

富岡氏は神奈川県に生まれ育ち、横浜高等商業学校（現在の横浜国立大学経済学部）で学んだ。しかし、在学中に太平洋戦争が激化し、学徒として戦線に送られるという経験をした。終戦を迎え故郷に戻った後、彼は国税庁に入庁し、税務の現場で実務知識を深めた。公務に就く傍ら、さらなる研鑽を積むため、夜間に中央大学法学部で法律を学んだ。この時期は、戦後日本の新しい国家資格制度が動き出した黎明期にあたる。富岡氏は、その第一回公認会計士試験と第一回税理士試験の両方に合格するという稀有な才能を示した。

国税庁での経験と資格取得を通じて得た高度な専門知識を背景に、富岡氏は教育・研究の道へ進んだ。中央大学法学部の助教授に就任し、その後1965年には教授に昇任した。以来1995年に退任するまでの約30年間、彼は中央大学で教鞭を執り、後進の育成に努めた。専門分野である税務会計の研究においては、その理論と実務の架け橋となる研究を進め、学界における重鎮の一人となった。また、政府税制調査会の特別委員など、公的な立場からも日本の税制のあり方について提言を行った。

富岡氏の学術的貢献は、膨大な量の著作によっても示されている。国税庁時代に執筆したとされる一冊は、「日本初の節税指南書」として話題を集め、その後の彼の多作な活動の端緒となった。税務会計の基礎理論から始まり、損益計算、棚卸資産、営業費、交際費といった具体的な会計項目の税務処理、企業の合理的な節税戦略、事業承継の問題、さらには消費税や法人税など税制全体に対する鋭い分析と批判まで、彼の著書が扱うテーマは極めて幅広い。これらの著作は、税務の専門家や企業の経理担当者だけでなく、経営者や一般の納税者にとっても、複雑な税務の世界を理解し、賢明な判断を下すための重要な指針となった。平易かつ実践的な語り口は多くの読者に支持され、日本の税務知識の普及に大きく貢献したと言える。

1995年に中央大学を退任し名誉教授となった後も、富岡氏は研究意欲を失うことなく、自身の研究所である冨岡総研を主宰し活動を続けた。長年にわたる教育、研究、そして税務実務への貢献が評価され、2007年には瑞宝中綬章を受章している。

2023年3月4日、老衰のため98歳でその生涯を閉じた。

富岡幸雄氏は、戦後の混乱期に税理士第一号として新たな道を切り拓き、国税庁での実務経験と中央大学での長年にわたる教育・研究活動を通じて、日本の税務会計分野の発展に計り知れない影響を与えた人物である。その研究成果と著作は、今なお税務に関わる多くの人々にとって貴重な遺産として受け継がれている。

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