寛文長崎大火

寛文長崎大火：長崎を焼き尽くした大火からの復興

寛文3年（1663年）3月8日、長崎は未曽有の大火に見舞われました。この火災は、筑後町から発生し、折からの北風にあおられて瞬く間に市街へと燃え広がりました。

火災の発生と被害

火元は、筑後町に住む浪人、樋口惣右衛門の放火でした。鬱屈とした日々を送っていた惣右衛門が発狂し、自宅二階の障子に火を放ち、それを隣家の屋根に投げつけたことが発端でした。当時の家屋は茅葺屋根が多かったため、火はまたたく間に燃え広がり、長崎の市街57町、2900戸もの家屋を焼き尽くす大惨事となりました。長崎奉行所も炎に包まれ焼失しました。

『増補長崎略史』によれば、被害は甚大で、市街63町、民家2916戸、そして奉行所や寺社33ヶ所が焼失。被害を免れたのは、ごく一部の地域（金屋町、今町、出島町、筑後町、上町、中町、恵比寿町の一部）に限られ、わずか365戸のみでした。火災は約20時間にわたり燃え続け、翌朝午前10時にようやく鎮火しました。

火災後の対応と復興

放火犯の樋口惣右衛門はすぐに捕らえられ、焼け出された人々の前で引き回された後、火刑に処されました。大火によって家を失った人々は、その日の食料にも困窮するほどでした。

当時の長崎奉行であった島田守政は、幕府から銀2000貫を借り受け、被災者への貸付を行いました。内町の住民には間口1間あたり290匁3分（銀60匁＝1両＝約20万円）、外町の住民には121匁から73匁が貸与され、住宅の復旧が図られました。また、焼失した社寺にも銀が貸与され、近隣の藩から約16,000石の米を購入し、被災者に安価で販売するなど、緊急対策が講じられました。これらの借銀は10年賦で返済され、延宝元年（1673年）に完済されました。

島田守政は、復興に際して都市計画にも着手しました。道路の幅を本通り4間、裏通り3間、溝の幅を1尺5寸と定め、計画的な整備を進めました。この時に定められた道幅は、その後の長崎の都市計画の基礎となり、明治時代以降に一部変更された箇所はあるものの、旧市街には今もその面影が残り、独特の町並みを形成しています。

倉田水樋の建設

本五島町の乙名であった倉田次郎右衛門は、以前から長崎の町の水不足を憂慮していました。この大火での消火活動における水不足を目の当たりにし、私財を投じて水道を開設することを決意しました。延宝元年（1673年）に完成した倉田水樋は、その後200年以上にわたり長崎の町に水を供給し続けました。

寛文長崎大火は、長崎の歴史において最大の災厄でしたが、島田守政や倉田次郎右衛門をはじめとする人々の尽力により、長崎の町は見事に復興を遂げました。この火災とその後の復興は、長崎の都市構造や生活に大きな影響を与え、現在にもその痕跡を見ることができます。

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