寺社伝奏

寺社伝奏（じしゃでんそう）

寺社伝奏とは、中世から近世にかけて公家政権に設置された役職であり、特定の寺社からの奏請を院や天皇に取り次ぐ役割を担いました。社寺伝奏とも呼ばれます。

概要

「伝奏」という言葉自体は平安時代後期から存在していましたが、役職として確立したのは鎌倉時代の後嵯峨院政期です。伝奏は院や天皇によって任命され、原則として関東申次が管掌する以外の全ての奏請を扱っていました。しかし、寺社興行が盛んになった後伏見院政期以降、伝奏の職掌は細分化され、国家的に重要な地位を占める特定の寺社との間の取り次ぎを専門とする伝奏が設置されるようになりました。具体的には、伊勢神宮の「神宮伝奏」、賀茂社の「賀茂伝奏」、延暦寺の「山門伝奏」、興福寺など奈良の寺院を統括する「南都伝奏」などが挙げられます。

南北朝・室町時代

南北朝時代に入ると、政治の実権は朝廷から室町幕府へと移行しました。寺社伝奏の任免は依然として院や天皇が行っていましたが、その職務内容は寺社からの奏請を室町幕府及び将軍に取り次ぐ役割へと変化していきます。これにより、寺社伝奏は幕府の役職としての側面を併せ持つこととなりました。この変化は、一般民政を担当していた惣伝奏が関東申次に代わって武家伝奏の職へと変化していくのと軌を一にするものです。しかし、応仁の乱後、室町幕府の政治力が衰退すると、寺社伝奏は再び院や天皇に取り次ぐ役へと戻りました。

江戸時代

江戸時代に入ると、寺社伝奏は武家伝奏の監督下に置かれ、寺社からの奏請を武家伝奏経由で院・天皇、場合によっては江戸幕府に取り次ぐ役職となりました。ただし、それまでのように特定の重要な寺社に限定されず、中小の寺社や各宗派・教派からの奏請も扱うようになります。ただし、門跡が置かれた宗派（法相宗・天台宗・真言宗など）では門跡経由で奏請が行われ、中小の神社は吉田家もしくは白川家が取り次ぎを行いました。さらに、江戸幕府の保護が厚い宗派（新義真言宗豊山派・臨済宗五山派・浄土宗・浄土真宗本願寺派など）の寺社伝奏は、武家伝奏が兼任する形で行われていました。


参考文献
伊藤喜良/高埜利彦「寺社伝奏」（『国史大辞典 7』（吉川弘文館、1986年） ISBN 978-4-642-00507-4）
富田正弘「寺社伝奏」（『日本史大事典 3』（平凡社、1993年） ISBN 978-4-582-13103-1）

もう一度検索