寿司由楼火災

寿司由楼火災は、1971年（昭和46年）1月2日の未明、和歌山県和歌山市の景勝地として知られる和歌浦に立地していた旅館「寿司由楼」で発生した大規模な火災です。この火災により建物全体が焼け落ち、宿泊客を中心に16名が犠牲となり、15名が負傷するという、極めて深刻な人的被害をもたらしました。

火災発生当時、旅館「寿司由楼」は和歌浦の海岸沿いに位置し、異なる高さの海岸段丘を利用して旧館と新館が建てられていました。旧館は大正時代に建築された木造構造で、度重なる増改築を経て老朽化が進んでおり、2階から4階までの部分を占めていました。一方、新館は1957年（昭和32年）2月に竣工した建物で、旧館よりも海側の低い場所に位置する地下1階地上2階建てでした。これら二つの建物は、2階部分で相互に接続されていました。旅館全体の延床面積は2,749平方メートルに及びました。

火災は1971年1月2日の午前1時3分頃、旧館の2階から発生したと推定されています。火災の発生が旅館の関係者によって発見され、消防への通報が行われたのは、それからおよそ17分後の午前1時20分頃のことでした。出火元となった旧館は、建設から長い年月が経過した木造建築であり、内部に十分な防火区画が設けられていなかったことが、初期の延焼を抑える上で大きな障害となりました。さらに、火災発生を早期に知らせ、避難を促すための自動火災報知設備が設置されていなかったことも、発見の遅れにつながり、被害拡大の要因の一つとされました。皮肉にも、この自動火災報知設備については、火災発生からわずか8日後の1月10日から設置工事が始まる予定であったと言います。

炎は乾燥した冬の空気と老朽化した木造構造を伝って瞬く間に燃え広がり、新館、旧館だけでなく、隣接していた土産物店や食堂をも巻き込みました。合計で約2,749平方メートルの建物が全焼する結果となりました。火災は発生から約2時間半が経過した午前3時25分にようやく鎮火に至りました。

この火災で犠牲となった16名の方々は、全員が旧館の4階に宿泊していたお客様でした。逃げ道を求めて廊下に出たものの煙に巻かれるなどして亡くなった方が7名、客室から避難できずに亡くなった方が8名でした。また、火の手を逃れようと窓から外部へ脱出しようとした際に、転落して命を落とした方が1名いました。この他にも15名が負傷しています。

寿司由楼は火災による壊滅的な被害からの復旧を目指し、翌年の1972年（昭和47年）には鉄筋コンクリート造の建物として再建されました。この再建された施設には、旅館機能に加え、新たな集客施設としてボウリング場も併設され、営業を再開しました。しかし、時代の変化と共に旅館としての経営は難しくなり、1995年（平成7年）に廃業しました。その後、建物は長い間使われないまま廃墟として残されていましたが、2005年（平成17年）に解体されました。現在、寿司由楼の跡地には、特別養護老人ホーム「ほうらい苑」が建設され、地域の福祉施設として利用されています。

（本記事は消防防災博物館の特異火災事例「寿司由楼」などを参考に記述しています。）

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