小保内虎夫

小保内虎夫（おぼない とらお）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の著名な心理学者です。1899年、岩手県に生まれ、1968年にその生涯を終えました。特に視知覚の研究分野で独自の理論を打ち立て、「小保内学説」とも称される感応理論を創設したことで、日本の心理学史に確固たる足跡を残しています。

岩手県に生まれた小保内は、旧制福島中学校、さらに旧制第七高等学校造士館で学びました。その後、東京帝国大学文学部心理学科に進み、1924年に卒業しています。卒業後は、教育者としての道を歩み始め、東京高等学校教授、日本大学教授、東京文理科大学教授などを歴任しました。1949年には東京教育大学の教授に就任し、長く後進の指導にあたりました。学術的な業績としては、1952年に「認識錯誤の法則に関する研究」によって東京大学から文学博士の学位を授与されています。この博士論文の研究対象となった認識錯誤もまた、彼の視知覚研究の一環と言えるでしょう。

小保内虎夫の最大の功績は、視知覚、特に錯覚や知覚の仕組みに関する独自の感応理論を提唱したことにあります。これは「小保内学説」として知られ、当時の心理学界において重要な位置を占めました。彼は緻密な実験研究を通して、視覚的な刺激が脳内でどのように処理され、認識されるかを深く探求しました。感応理論は、知覚現象を単なる刺激への受動的な反応としてではなく、能動的な構成過程として捉えようとする視点を含んでおり、その後の知覚研究に影響を与えたと考えられます。

教育者としても熱心であり、大学教授として多くの学生を指導しました。また、自身の研究成果や心理学の体系をまとめた著書も多数出版しています。代表的なものとしては、心理学の基礎を解説した『心理学概要』（1930-31）、人間科学としての心理学の意義を論じた『人間科学としての心理学』（1948）、『心理学と文化』（1949）、『心理学 人間科学の基礎』（1954）などが挙げられます。さらに、自身の核心的な研究である感応理論を詳しく解説した『視知覚 感応学説研究』（1955）は、この分野における重要な文献となりました。これらの著作は、当時の心理学研究や教育の基礎となるものでした。加えて、『色彩象徴法性格検査解説』、『入門心理実験法』、『大学入試方法の検討』といった共編著も手がけており、心理学の応用や教育方法論にも幅広い関心を示していたことがうかがえます。

小保内虎夫は、多岐にわたるテーマで活発な論文発表も行いました。初期には、心理学研究における統計的手法（相関係数）の適用や、双生児を用いた遺伝研究、知能に関する議論などを扱っています。彼の主たる関心であった視覚研究に関しては、「太陽及び月の大きさの錯覚」や「錯視に就いて」のような具体的な錯覚現象の分析、「視空間構造の実験的研究」といった空間知覚の研究を行いました。特に「感応理論の研究」と題する一連の論文は、1933年から1955年までの長期間にわたり発表され続け、彼の研究活動の中心をなしました。他にも、「原始的感情」のような感情の研究、戦時下の「国防心理学」、知覚の発達、生理心理学的な知覚側面、学習理論、応用心理学、社会心理学の基礎理論など、非常に広範なテーマに関心を持ち、多くの学術誌や講座に寄稿しています。その研究は国内の学術誌にとどまらず、国際的な学術誌にも発表されており、国内外に発信されました。

小保内虎夫は、視知覚における独自の感応理論を提唱し、日本の心理学界において先駆的な役割を果たしました。教育者、研究者として長きにわたり活躍し、その多岐にわたる研究活動と著作は、日本の心理学の発展に多大な貢献をしました。彼の研究姿勢と理論は、その後の日本の心理学研究に少なからず影響を与えたと言えるでしょう。

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