小尾十三

小尾十三の生涯と作品

小尾 十三（おび じゅうぞう、1908年10月26日 - 1979年3月8日）は、日本の小説家・教師として知られています。山梨県北巨摩郡穂足村に生まれた彼は、子ども時代を経て様々な職業に就く経歴を持ち、その中で多くの文学作品を生み出しました。

幼少期からの歩み

小尾は四男として誕生しましたが、家族は農家であり、父は国定教科書の販売を行っていました。しかし、1912年に父が破産し、家族は甲府市に移住しました。ここで母は子供たちを連れて別居し、小作業や養蚕で生計を立てる厳しい生活を強いられました。このような家庭背景は、彼の後の作品に影響を与えたことでしょう。

教育と職業の変遷

彼は1923年、甲府商業学校に入学しますが、翌年には退学し、長野鉄道局教習所の電信科に進みます。その後、彼は様々な職を経験し、農民組合運動や日本共産党の活動にも関与するようになります。母の支援を受けて東京に上京した後、1934年には朝鮮総督府逓信局で働きながら、正則英語学校の夜間部で教員免許を取得しましたが、当時の警察による身辺調査で就職の機会が限られていました。

1939年には朝鮮の元山商業学校で教師を務め、その後も新京中央放送局や森永製菓満州本社での経理課長として働くなど、教職と文筆活動を両立させながらキャリアを積んでいきました。

文学作品とテーマ

小尾の代表作である「登攀」は、彼の教師としての経験を基に書かれた作品です。この小説では、内地から赴任した主人公と朝鮮人生徒との献身的な愛情が描かれ、当時の皇民化政策の影響を色濃く反映しています。「登攀」は1944年に文芸雑誌『國民文學』に発表され、その後『文藝春秋』にも掲載されました。この作品は一部から非常に高く評価され、芥川賞候補にも推薦されました。

戦後、小尾は「雑巾先生」などの短編も発表し、1945年には「雑巾先生」を含む単行本を出版しています。特に「雑巾先生」は、後に高額で評価されるなど、その影響力は大きいと言えるでしょう。この作品は民間の鑑定番組で250万円に達する鑑定額が付いたこともあり、その文学的価値が示されています。

教員生活と後続作品

小尾は1947年に日比谷出版社に勤務しますが、会社は倒産。1950年には甲府商業高校の教師になることができました。彼は1965年に書き下ろしの自伝小説『新世界』を発表し、これは「登攀」のテーマをさらに深めた作品となっています。この作品では、戦後の新京における主人公と朝鮮人生徒との関係が描かれ、当時の社会情勢が背景にあります。

著作と未発表作品

小尾は著書として『新世界』や『ひとりっ子の父』などを出版しましたが、彼の死後に出版されたのは『ひとりっ子の父』だけです。しかし、未発表の作品がいくつか残されています。これには『燈火』『長春』『怨恨』『赤軍進駐の周辺』『しつけ糸』『青い林檎』『青き大麦畑』といったタイトルがあり、彼の思考や視点が伝わる作品群となっているのです。

結び

小尾十三は日本文学において、社会や教育の現実を鋭く描いた作家でした。彼の作品は、戦時中や戦後の日本を背景にした人間模様を表現し、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

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