小林まさる (料理研究家)

78歳からの転身: 料理研究家 小林まさる氏の物語

1933年、樺太（現ロシア連邦サハリン州）に生まれた小林まさる氏は、鉱山技師の父を持つ7人兄弟の長男として、厳しい環境の中で育ちました。一家はその後、樺太から北海道美唄へと移り住み、小林氏は高校卒業後、父の跡を継いで炭鉱で働くことになります。

20歳から始まった酒豪生活は、焼酎を中心に大量のアルコールを摂取する日々でしたが、40代半ばで深刻な健康被害に見舞われます。肝臓を患った小林氏は、医者の勧告に従い、禁酒、服薬、そして食生活の改善に励みます。動物性たんぱく質の摂取を調整するなど、長年に渡る努力の結果、50代半ばには健康を回復。しかし、再び酒豪生活に戻り、60代後半まで1日7合もの酒を飲み続けることになります。

家庭では、病弱だった妻の療養のため、幼い二人の子供の食事や弁当作りを担っていました。これが、小林氏の料理人生の始まりと言えるでしょう。本格的に料理研究家としての道を歩み始めるのは、定年退職後、息子夫婦と同居を始めた時でした。息子の妻、小林まさみ氏が料理研究家として活躍する中、小林氏は調理のアシスタントとして、テレビや雑誌の仕事に同行するようになります。

持ち前の明るさと確かな料理の腕前、そして、家庭料理で培われた経験から、小林氏はたちまち人気者となりました。そんな小林氏に転機が訪れます。ある出版社から「小林さんの料理を本にしたい」というオファーを受け、2011年、『まさるのつまみ』を主婦の友社より出版します。

本書に掲載されたメニューは、酒の肴をメインとした、簡単に作れる料理ばかりです。冷蔵庫にある残り物や乾物、缶詰を賢く使い回し、野菜や魚介類をふんだんに使用した、健康を意識したレシピが満載です。肴だけでなく、常備菜や副菜にもなるメニューも多く、シンプルな料理でありながら、器選びや盛り付けにもセンスが光ります。

手軽に作れて、見た目も美しく、健康志向という時代のニーズを的確に捉えた本書は、ベテラン主婦から若い母親、そして料理初心者まで、男女問わず幅広い層から支持を獲得しました。

コロナ禍となった2021年8月、仕事が減少したことをきっかけに、YouTubeチャンネル『小林まさる88チャンネル』を開設。さらに、Instagramや公式サイト、オンラインショップなども開設し、精力的に活動しています。現在も、小林まさみ氏と共同で、料理を通して人々を笑顔にする活動を続けています。

小林まさる氏の料理は、単なるレシピ本にとどまりません。それは、長く厳しい人生経験と、家族への愛情、そして料理への情熱が凝縮された、人生そのものの物語と言えるでしょう。彼の料理を通して、多くの人々が日々の生活に喜びと活力を得ていることは間違いありません。

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