小林正弥

小林 正弥

日本の政治学者。1963年生まれ。専門は政治哲学、公共哲学、比較政治学。千葉大学大学院社会科学研究院の教授を務める傍ら、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授、日本ポジティブサイコロジー医学会理事、地球平和公共ネットワーク代表、公共哲学ネットワーク代表といった様々な立場で活動している。

経歴

筑波大学附属駒場高等学校を卒業後、東京大学法学部で学び、1986年に卒業。その後、東京大学法学部助手、千葉大学法経学部助手、同助教授を経て、2003年からは同大学の教授として教鞭をとる。2006年には千葉大学人文社会科学研究科教授に着任。この間、1995年から1997年にかけては、ケンブリッジ大学社会政治学部客員研究員およびセルウィン・コレッジ準フェローとして海外での研究経験を積んだ。また、千葉大学地球環境福祉研究センター（公共研究センター）のセンター長も務めた。

研究活動

小林氏の研究は多岐にわたるが、その基盤には戦後日本の政治を恩顧主義（クライエンテリズム）の観点から分析した初期の研究がある。これを皮切りに、習合主義や政治的腐敗といったテーマにも取り組み、政治学の探求と並行して、実践的かつ規範的な政治哲学のあり方を追求している。

特に力を入れているのが公共哲学とコミュニタリアニズムの研究である。アミタイ・エツィオーニ、アラスデア・マッキンタイア、マイケル・サンデルといった主要なコミュニタリアニズム論客の研究を通じて理論を深め、これを現実社会に応用可能な実践的な哲学として確立することを目指している。サンデル氏とは個人的な交流も深く、2010年に放送されたNHK教育テレビの「ハーバード白熱教室」では解説者を担当し、公共哲学や正義を巡る議論を日本に広く紹介した。

近年は、公共性や対話をキーワードとした哲学の実践的な展開や、コミュニタリアニズム研究に加え、ポジティブ心理学の研究にも注力し、両分野の統合を図ろうとしている。これらのテーマのほかにも、共和主義、地球的スピリチュアリティ・環境・福祉、恩顧主義と習合主義、政治的腐敗など、幅広い課題に取り組んでいる。

また、イラク戦争をきっかけに平和問題に対する公共哲学的な視点からの考察を深め、「非戦」「非攻」に基づく平和主義の再構築を提唱している。日本における新しい学問分野である公共哲学の確立と推進においても中心的な役割を果たしており、千葉大学の21世紀COEプログラム「持続可能な福祉社会に向けた公共研究拠点」では、公共哲学分野のサブリーダーとしてプロジェクトの推進に貢献した。

教育活動

教育においては、「対話型講義」の展開に力を入れている。千葉大学での正規の授業に加え、社会人や学生を対象とした様々な機会に実践している。講義のテーマは教育、宗教、平和、人生など幅広いが、参加者が異なる立場や意見に耳を傾け、互いの相違点を認識しながら対話を深めることで、新たな視点や共通の課題を発見へと導く点に大きな特徴がある。各地の教育機関などで行われた対話型講義の一部は、「対話型公共哲学TV」で公開されており、オンラインで視聴可能となっている。

主な著書・訳書・メディア出演

多くの著書や編著を出版しており、中でも『政治的恩顧主義論』、『非戦の哲学』、『友愛革命は可能か』、『サンデルの政治哲学』、『対話型講義』、『日本版白熱教室』、『人生も仕事も変える「対話力」』、『アリストテレスの人生相談』、『神社と政治』などの単著がある。また、公共哲学や憲政、貧困問題、コミュニティなどをテーマとした共編著も多数手がけている。特に、マイケル・サンデル氏の著作の監訳や解説を多く担当しており、『民主政の不満』や『ハーバード白熱教室講義録』などがある。

メディアへの出演も多く、前述の「ハーバード白熱教室」の解説のほか、NHK「白熱教室JAPAN」では自ら講義を行った。フジテレビ「めざましどようび」ではニュースコメントを担当した経験もある。

公共哲学の理論的探求と実践的な展開を両立させ、教育やメディアを通じてその思想を広く発信している、日本の公共哲学研究を牽引する存在である。

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