小森正幹

小森正幹 - 多才な造園家、そして小説家

小森正幹氏は、日本の造園分野における功労者であり、同時に小説家「野元 正」としても活動した異色の経歴を持つ人物です。東京都に生を受けた小森氏は、自然と都市空間の関係性に関心を寄せ、京都大学農学部林学科で造園学や環境デザインを専門的に学びました。

大学を卒業した1967年、神戸市役所に入庁。以後、長きにわたり神戸市の公園緑地行政を牽引する立場として活躍します。市の緑豊かな景観づくりに尽力し、市民が憩える場所の整備や自然環境の保全に取り組みました。公務員時代には、土木局公園緑地部大規模公園建設事務所長や建設局公園砂防部長といった重要な役職を歴任。特に大規模な公園プロジェクトの推進や、緑地保全に関連する業務に深く関わったことがうかがえます。

市役所を退職した後も、造園分野への貢献は続きました。神戸市公園緑化協会に身を置き、伝統的な日本庭園である相楽園の園長を務めるなど、現場での管理・運営にも携わりました。このように、計画立案から現場の実務まで、造園に関する幅広い経験を積んでいます。

小森氏の造園家としての実績は顕著であり、その功績は多方面から評価されています。2005年には、日本の公園緑地に関する権威ある賞である第27回日本公園緑地協会北村賞を受賞しました。

小森氏が中心となって実現した代表的な造園作品には、以下のものがあります。

神戸市しあわせの村: 高齢者や障害者を含む全ての市民が利用できる総合福祉ゾーンとして計画され、広大な敷地に公園、宿泊施設、レクリエーション施設などが配置されています。小森氏はその全体構想から設計、施工監理、さらには開業後の管理運営に至るまで、一貫して深く関わりました。
布引ハーブ園: ロープウェーでアクセスする、山の斜面を活用したハーブと花の庭園です。異国情緒あふれる景観と多様なハーブが特徴で、ここでも全体プランの策定から管理運営までを担いました。
* 神戸市花と彫刻の道、フラワーロード: 神戸市の中心部を彩る主要な街路景観であり、都市のシンボル的な緑空間として多くの市民や観光客に親しまれています。

これらのプロジェクトを通じて、小森氏は都市空間における緑地の役割とその可能性を追求し、機能的かつ美しい景観の創出に貢献しました。また、造園に関する自身の知識や、神戸の街への深い愛着を形にしたのが、神戸市内の花と文学にまつわる場所を紹介する小冊子『花を巡る文学散歩』です。この労作は12年という長期間をかけて執筆され、その完成度の高さから神戸の街歩きガイドとしても重宝されています。

一方で、小森正幹氏は「野元 正」の筆名で小説家としても活動しています。公務員として多忙を極めていた40歳頃、日々の仕事とは異なる創造的な活動をしたいという内なる衝動から、小説の執筆を始めました。

執筆開始から約1年後には、文芸同人誌「八月の群れ」に参加し、文学仲間との交流を通じて作風を磨きました。やがてこの同人誌の代表を務めるまでになり、小説家としての地歩を固めていきます。

野元正名義での小説作品は文学界でも評価され、1997年には『トライアングル』で第26回プルーメール賞を、2009年には『飴色の窓』で第3回神戸エルマール文学賞を受賞しました。これらの受賞は、造園家としての顔とは別に持つ、彼の文学的な才能が認められた証と言えるでしょう。

このように、小森正幹氏は造園家として神戸の都市景観と緑化に多大な貢献を果たす傍ら、小説家としても独自の創作活動を展開し、文化的な側面からも社会に貢献した稀有な人物です。

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