小沢昭一の小沢昭一的こころ

「小沢昭一の小沢昭一的こころ」は、俳優・小沢昭一が企画・出演したラジオ番組です。1973年1月8日から2012年12月28日まで、約39年間にわたりTBSラジオをキーステーションにJRN系列局で放送されました。小沢昭一が一人で様々な人物を演じ分けながら語る「モノローグ番組」という独自のスタイルを確立し、累計放送回数は1万回を超える長寿番組として知られています。

番組の根幹を成すのは、「○○について考える」という形式で設定される週替わりのテーマです。これは、前身番組である『森繁の重役読本』から引き継がれた番組の特色でした。扱うテーマは、当時の社会情勢や時事問題から、日常のささいな出来事、果ては艶笑噺のようなものまで、非常に幅広い範囲に及びました。小沢昭一独自の軽妙な節回しと観察眼によって紡ぎ出される物語は、多くのリスナー、特に永年の固定ファンを獲得しました。

番組の中心人物は、架空の存在である「宮坂さん」です。番組開始当初、宮坂さんは「昭和ヒトケタ」世代の、働き盛りでありながらもどこか悲哀を漂わせるサラリーマンとして描かれることが多く、これは小沢自身の分身のような存在でした。しかし、小沢が歳を重ねるにつれて、宮坂さんの設定も変化し、「宮坂お父さん」や「宮坂薬局店長」といった、現役から少し退いたことをうかがわせるような表現が使われるようになりました。宮坂さんの他にも、架空のバーのママである「れいこママ」や「詩人のヒモ」、子供たち、そして番組プロデューサーをモデルにしたとされる「ノーテンキプロデューサー」など、固有名詞を持つ個性的な脇役が登場しました。これらの人物は、宮坂さんの妻である「奥方」（後に「有子（ユウコ）」という名前であることが明かされます）を含め、全て小沢昭一が一人で演じ分けました。

番組の基本的な路線として、「中年男の悲哀」が描かれ、愚痴を交えながら、世の中の出来事に対して斜に構えた視点から持論を展開する「蘊蓄」が語られました。一つの物語に明確な「落ち」があるというよりは、その都度テーマを変えつつ、次回への期待を抱かせながら物語が続いていく形式が特徴でした。

番組は、山本直純作曲のテーマ曲に乗せた藤田恒美のタイトルコール、小沢の前説、間奏曲を挟んだ本題、そして独特の「締めの言葉」という、長年変わらない構成で進行しました。特に、放送の最後に小沢が放つ「また明日のこころだァーッ。」あるいは「また来週のこころまでェーッ。」という雄叫びは、番組の代名詞となりました。

放送期間中には、その内容が書籍化されたり、カセットテープやCDといった形で商品化されたりもしました。特に、番組の節目の年には記念商品が多数発売されています。また、放送開始10周年の1983年には、小沢自身の少年時代を描いた特別番組「元祖・蒲田行進曲」が放送され、民放連賞やギャラクシー賞を受賞するなど、高い評価を受けました。番組自体も、放送25周年時にはスポニチ文化芸術大賞優秀賞、小沢とスタッフは放送文化基金賞を受賞しています。

長寿番組として順調に歴史を重ねていましたが、2011年の東日本大震災発生時には一時的に放送を休止しました。同年には記念すべき放送1万回を達成し、小沢自身も放送2万回への意欲を見せていましたが、長年患っていた前立腺癌による体調不良のため、2012年9月に入院。同年9月21日放送分をもって新作の制作は事実上終了となり、その後は過去の傑作選が放送されました。そして、同年12月10日に小沢昭一が死去。制作局であるTBSラジオでは12月14日に最終回を迎え、その他のネット局も12月28日までに放送を終了し、約40年の歴史に静かに幕を下ろしました。小沢の死後、番組の功績を称える追悼特別番組も制作・放送され、ギャラクシー賞ラジオ部門特別賞を受賞しています。番組終了後も、過去の放送を収録した傑作選CDボックスが販売され続けています。

この番組は、小沢昭一という唯一無二の語り部によって、戦後日本の世相や市井の人々の暮らし、そして中年男性の普遍的な悲哀やユーモアが描かれた、日本のラジオ史において特異で貴重な存在でした。

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