小澤政之

小澤政之氏は、日本の生化学者として分子細胞生物学、中でも細胞接着分子の研究分野で多大な貢献を果たしました。

経歴

小澤氏は、1975年に埼玉大学理工学部生化学科を卒業後、大阪大学大学院理学研究科に進学。1980年に博士後期課程を修了し、大阪大学より理学博士号を取得しました。博士論文では、「HVJによる細胞融合反応の生化学的解析」として、ウイルスの膜糖蛋白質を用いた溶血・細胞融合活性の再構成に関する研究に取り組みました。その後、研究キャリアを積み重ね、1994年には鹿児島大学医学部教授に就任し、以降、精力的に研究活動を行いました。

研究分野

小澤氏の専門は分子細胞生物学であり、特に細胞が互いに接着し、組織を形成する上で中心的な役割を担う「細胞接着分子」の研究に焦点を当てました。その中でも、上皮細胞などの接着に不可欠なカドヘリンと呼ばれる分子ファミリー、そしてカドヘリンの細胞内領域に結合してその機能を調節するカテニンと呼ばれるタンパク質群から構成されるカドヘリン・カテニン複合体に関する研究は、氏のキャリアを通じて重要なテーマでした。

主な研究成果

小澤氏の研究は、カドヘリン・カテニン複合体の分子レベルでの構造や機能、そして細胞内での制御機構の解明に大きく貢献しました。

カドヘリン・カテニン複合体の構造と相互作用: 細胞接着分子であるカドヘリンの細胞質側ドメインに、α、β、γ（プラコグロビン）などのカテニンが結合する分子メカニズムを詳細に解析しました。特に、αカテニンが他のカテニンとどのように結合するか、その結合領域を同定するなどの研究を進めました。
カドヘリンの機能解析: カドヘリンの特定のカルシウム結合部位が細胞接着機能に必須であることを明らかにする一方、カドヘリンが細胞を接着させるだけでなく、細胞表面の極性を誘導するという新たな機能を持つことも示しました。これは、組織の形態形成において細胞接着が果たす多様な役割を理解する上で重要な発見でした。
発生・分化との関連: 細胞接着分子が、細胞の配置や移動を制御することで、生体の発生や細胞の分化の過程をどのように調節しているか、そのメカニズムを探求しました。カドヘリン・カテニン系が、細胞の形態変化や組織構築に不可欠な役割を担っていることを示しました。
疾患（特に癌）との関連: 細胞接着機構の異常が様々な病態に関わることから、小澤氏の研究室では、癌におけるカドヘリン・カテニン系の変化にも注目しました。肝細胞癌、大腸癌、神経芽腫、眼瞼癌など、様々な種類の癌組織において、カドヘリンやカテニンの発現が低下していることや、それが癌細胞の浸潤や転移といった悪性化とどのように関連しているかを精力的に調べました。これらの研究は、癌の進行メカニズムを理解し、新たな治療法開発の手がかりを提供するものでした。
細胞接着の制御機構: カドヘリンによる細胞接着が、細胞内のシグナル伝達経路や細胞骨格系とどのように連携してダイナミックに制御されているかについても研究を進めました。チロシンリン酸化など、翻訳後修飾によるカテニンやカドヘリンの機能調節メカニズムを明らかにしました。
関連研究: 細胞内のカルシウム結合タンパク質であるレティキュロカルビンや、細胞表面の糖鎖合成に関わる糖転移酵素など、細胞の機能や発生に関わる幅広いテーマにも取り組みました。

小澤政之氏の研究は、細胞接着分子、特にカドヘリン・カテニン複合体に関する理解を深め、細胞の組織形成や発生、さらには癌といった疾患における細胞接着機構の破綻の役割を明らかにする上で重要な基礎を築きました。その業績は、分子細胞生物学分野における細胞接着研究の発展に大きく貢献するものです。

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