尻啖え孫市

尻啖え孫市

『尻啖え孫市』は、著名な歴史作家司馬遼太郎による戦国時代を舞台にした物語で、主人公は鉄砲技能で知られる雑賀党の頭目、雑賀孫市です。1963年から1964年にかけて『週刊読売』に連載され、その後映画化もされるなど、多くの人々に愛されています。

物語の背景と孫市の人物像

雑賀党は、鉄砲を巧みに扱うことで名を馳せた集団であり、そのリーダーである孫市は、実在した鈴木氏の一族から名が継承されています。しかし、複数の「孫市」が存在するために、彼の正確な歴史的な事績を把握することは難しく、作中の孫市のキャラクターは司馬の創作に基づいています。本作では、織田信長と本願寺勢力の争いを背景に、孫市の個性豊かな人物像と彼を囲む様々な人々が描かれています。

あらすじ

物語は、織田信長が平定を目指す岐阜城下に雑賀孫市が訪れるところから始まります。彼は大胆にも城下で鉄砲を撃つなど、その行動は周囲を惹きつけます。信長は彼の存在に興味を持ち、部下の秀吉を通じて接触を試みますが、孫市は信長の妹に恋をして上洛した背景があり、彼の動機は単なる売り込みとは異なることを明らかにします。

信長は、孫市の才能を生かすべく彼を自身の味方にしたいと考えますが、孫市は女性と名声を追い求める一方、織田家との結託を疑い始めます。この間、彼は一向宗の令嬢、萩姫との出会いを経て、彼女が門徒の支持を受けていることを知り、さらなる葛藤を抱えることになります。

孫市は信長との対決を選び、敵に回ることを決意します。彼が本願寺の武士たちを指揮し、戦いの中での見事な指揮ぶりと戦略で信長軍に立ち向かう姿は感動的です。孫市は数々の戦闘でのみならず、彼の人間性をも持って信者たちから慕われ、戦争を通じて一瞬の勇気と友情の間で揺れ動きます。

彼の存在は、戦の中での奮闘だけでなく、友情を育むという点でも重要です。また、彼に対する秀吉の思いやりのある接触や、孫市の無類の女好きが描かれることで、物語に深みが加わります。

最終章

信長との抗争の後、孫市は堺に隠居して生活を始めますが、その後、秀吉が台頭していく様子を静かに見守ります。彼の悠々とした人間性と自由を愛する厚意は、かつての戦友との再会を望むものの、秀吉との関係に悩む様子を通じて描かれています。

物語の最後、孫市は秀吉の招きに応じて赴くが、そこで命を落とす運命に翻弄されます。この快男児の悲劇的な最期は、戦国時代の象徴とも言える存在感を持ちながら、彼の自由自在な精神が時代と共に消えていくことを示唆しています。『尻啖え孫市』は、英雄的な人物とその人間的な側面を見事に描いた名作となっています。

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