尾上菊次郎 (3代目)

三代目尾上菊次郎（1882年10月10日 - 1919年8月27日）は、明治から大正時代にかけて活躍した歌舞伎役者です。本名を岡田幸次郎といい、俳名として鶯友、梅花を名乗りました。屋号は音羽屋、紋は向い菊と裏菊菱を用いていました。

生い立ちと芸の道

東京麹町で、大衆雑誌の出版を手掛ける岡田常次郎の息子として生まれました。五代目尾上菊五郎に師事し、12歳で尾上梅次郎の名で初舞台を踏みました。1905年（明治38年）4月には名題に昇進し、歌舞伎座で八代目尾上芙雀を襲名。その後、1915年（大正4年）4月に市村座にて『助六曲輪菊』の揚巻を演じた際、三代目尾上菊次郎を襲名しました。

六代目菊五郎との共演

三代目菊次郎は、六代目尾上菊五郎の女房役者としてその才能を大いに発揮しました。台詞に独特の癖がありましたが、その色気のある芸で観客を魅了し、立女方や世話物を得意としていました。特に、『義経千本桜・すし屋』のお里、『怪異談牡丹燈籠』のおみね、『伽羅先代萩』の政岡、『天衣紛上野初花』の三千歳などの役は、彼の代表的な当り役として知られています。

名優を支える女房役

菊次郎は、二代目市川左團次における二代目市川松蔦、初代中村鴈治郎における三代目中村梅玉・初代中村魁車のように、名優を支える女房役として六代目菊五郎を献身的に支えました。自身が菊五郎よりも二歳年上であったにもかかわらず、それを隠して二歳年下と偽り、菊五郎の情をより深くしようとしました。このことに対し、菊五郎は「その用意がうれしくてたまりません」と述懐しています。

また、三千歳を演じた際には、厳寒の中、冷水に手を浸して、舞台上で菊五郎演じる直侍にその手を握らせました。その冷たさに菊五郎は思わず菊次郎を抱きしめたというエピソードも残っています。この逸話からも、菊次郎の役への情熱と、菊五郎との深い絆が伺えます。

突然の死とその後

1919年（大正8年）8月、帝国劇場での『怪異談牡丹灯篭』でおみね役を演じ終えた後、7月から患っていた風邪が悪化し、急逝しました。その突然の死は、歌舞伎界に大きな衝撃を与えました。菊次郎の死は、同じ舞台で共演した四代目河原崎國太郎の急死とも重なり、菊五郎はその後「牡丹灯籠」を演じることがなかったと言われています。将来を嘱望されていた菊次郎の早すぎる死は、多くの関係者に深い悲しみをもたらしました。

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