尾花沢派出所襲撃事件

尾花沢派出所襲撃事件

尾花沢派出所襲撃事件（おばなざわはしゅつじょしゅうげきじけん）は、1947年（昭和22年）10月20日に、山形県北村山郡尾花沢町（現在の尾花沢市）で発生した事件です。これは、第二次世界大戦終結後の混乱期、特に食糧問題とそれに起因する社会的不安が背景にある騒乱事件として歴史に記録されています。

事件の発端となった社会情勢

終戦直後の日本は、深刻な物資不足、特に食糧不足に苦しんでいました。政府は食糧管理法に基づき主要な食糧の流通と配給を統制しましたが、正規の配給量だけでは国民の生活を支えきれず、各地で非合法なヤミ市やヤミ米取引が蔓延していました。このような状況に対し、政府や警察は統制経済を維持し、公正な配給制度を守る目的で、ヤミ米をはじめとする不正流通の取り締まりを厳格化しました。

山形県警察部も例外ではなく、ヤミ米の摘発に力を入れていました。しかし、生活のためにヤミ取引に関わらざるを得ない人々、中には食糧確保のためにヤミ米の出荷などを行っていた一部の在日朝鮮人にとって、警察の取り締まりは生活を脅かすものであり、警察との間で緊張関係や不満が高まっていました。

事件の概要

1947年10月20日、こうしたヤミ米取り締まりへの反発や鬱憤が、尾花沢派出所襲撃という形で表面化しました。まず午後3時頃、約7人とされる一団が、当時の楯岡警察署（現在の村山警察署）の管轄下にあった尾花沢派出所に現れました。

この時、派出所には警察官が不在でした。彼らはその隙に派出所内に押し入り、抗議の意を示すかのように、あるいは警察への威嚇行動として、室内の備品や家具を破壊しました。また、派出所の象徴である門標を取り外した後、一旦その場から引き揚げました。

その後、外出から戻った派出所の警察官が、荒らされた室内の惨状を見て事態に気づき、直ちに所属の警察署へ連絡を取りました。ところが、この報告が行われた間もなく、最初に派出所を襲撃したグループに加えてさらに多くの人々が集まり、合計で約30人ほどの規模となり、再び派出所周辺に集結しました。

集結した人々は、派出所を取り囲み、警察官に対し激しい抗議活動を展開しました。彼らは石や火鉢を投げつけるなど、派出所に向けて暴力行為に及びました。事態は収拾がつかないほどの騒乱状態となりました。

事態の収拾と検挙

危機的な状況に陥った尾花沢派出所を支援するため、楯岡警察署は迅速な対応を取りました。近隣の新庄警察署に応援を要請するとともに、当時の占領下という状況から、事態鎮圧のために進駐軍（連合国軍）にも応援を求めました。要請を受けた新庄警察署の警察官や進駐軍部隊が現場に駆けつけ、事態の鎮圧にあたりました。これにより騒乱は収まり、騒ぎに関与していたとみられる29人が警察によって検挙されました。

検挙された人々は、その後、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の容疑で取り調べを受けました。そして、事件発生から間もない10月23日には、これらの被疑者全員が検察庁へ送致されました。

この尾花沢派出所襲撃事件は、戦後直後の混乱期における社会不安や、食糧問題に根差した法執行側と一部住民との間の軋轢が顕在化した事例として、当時の警察記録や歴史資料にその詳細が記されています。

参考文献

『山形県警察史 下巻』（山形県警察史編さん委員会編　1971年）

関連項目

山形県警察部
ヤミ米
戦後混乱期

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