屈折回路

屈折回路

松本清張による長編小説『屈折回路』は、1962年の冬から1965年にかけて『文學界』に連載され、1977年に出版されました。この小説は、従兄の自殺をきっかけに始まる、因果関係が錯綜する物語です。

あらすじ

物語は私が従兄の香取喜曾一の自殺を知るところから始まります。一見、彼が神経衰弱によって首を吊るような人物であるとは思えず、熊本の香取の家を訪れる決意をします。香取の勤務先である熊本衛生試験所に遺書が残されていましたが、所長はその内容を妻の江津子に見せなかったことが気になります。

香取が自殺する直前に北海道の寿都を訪れていたことを江津子から聞かされ、その事が私の興味をさらに引き立てます。衛生試験所で所長に香取の研究費について尋ねると、冷たい反応をされます。香取が研究していたウイルスと、自殺前の行動に疑念を抱き、私は北海道へ向かうことにしました。

行動を進める中で、香取が大流行とは無関係な場所リゾート地の寿都へなぜ向かったのか、疑問は深まるばかりです。香取の行動がポリオの感染経路探しだったのではとの考えから、寿都の次に岩内、そして夕張を訪れ、香取の足跡を追いました。

その旅で出会ったのは、大手製薬会社のP製薬の担当者・山崎でした。ポリオ流行時のワクチン製造の実態についての話を聞き、研究や製薬業界が密接に関係していることを知ります。

東京に戻ると、江津子から香取が国際衛生綜合研究所から資金を得ていたという話を聞き、養子の礼を名目に研究所との接触を試みました。しかし、研究所の担当者は外での面会を求め、何かを隠している様子でした。

P製薬からも、国際衛生綜合研究所がアメリカの財団とつながっていることや、研究内容が表向きと異なることをほのめかされ、ますます事態が複雑に思えてきました。私は、戦時中の日本軍の細菌戦のことを考えるようになり、その疑念が香取の死の背景に深く関与しているのではないかと感じました。

熊本大学医学部を訪れ、香取に関する情報を収集し続ける中、私の目の前で江津子が他の男と話をしているのを見て、彼女に対する疑念が強まります。香取の研究が製薬会社に利用されていたのか、彼の研究が真実を求めていたのか、その真実が徐々に分からなくなりました。

物語の結末に向かう中で、私は次第に江津子に対して不信感を抱くようになります。彼女の行動は私の調査を妨げようとしているかのように思えてなりません。やがて、私の人生は次第に不安定になり、江津子の娘・順子が私を見て恐れを抱くことになります。

この小説は、サスペンスやミステリーだけでなく、戦後の日本社会における陰謀や人間の心理の複雑さを描いた作品として、多くの読者を魅了し続けています。松本清張が描く巧妙なストーリー展開と深いテーマに触れ、是非、多くの方にこの作品を読んでいただきたいと思います。

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