山中寛

山中 寛（やまなか ひろし、1954年 - 2016年3月22日）は、福岡県北九州市に生まれ、日本の心理学界において、特に臨床心理学、スポーツ心理学、そしてストレスマネジメント教育の分野で顕著な貢献を果たした人物である。晩年は鹿児島大学大学院臨床心理学研究科の教授として、専門家育成と研究に尽力した。

山中氏は、九州大学大学院教育学研究科にて教育心理学を深く学び、博士課程を単位取得のうえ退学した。その後、1985年に鹿児島大学教育学部の講師としてアカデミックキャリアを開始。当初はスポーツ心理学を主要な専門分野としていたが、1987年に助教授に昇任すると同時に臨床心理学も専門に加え、活動領域を広げた。

鹿児島大学における彼のキャリアは発展を続け、2002年には大学院人文社会科学研究科の教授となり、臨床心理学専攻を担当した。翌2003年には同専攻の専攻長および心理臨床相談室長を兼任し、大学における臨床心理学の教育体制強化と地域への心理支援サービスの提供に尽力した。さらに2007年には、専門職大学院として新たに設置された鹿児島大学大学院臨床心理学研究科の初代研究科長および教授に就任。高度な専門性を有する臨床心理士の育成に情熱を注いだ。長年の研究と実践に基づき、2013年には九州大学より博士（心理学）の学位を取得している。

彼の専門分野は多岐にわたるが、特にスポーツ心理学の知見を生かしたアスリートへの心理的サポート、そして現代社会における重要性が高まるストレスマネジメントの教育と普及に力を注いだことは、彼の大きな功績の一つである。競技者がその能力を最大限に発揮できるよう、心理面からの支援技術を開発し実践する一方で、動作やイメージといった身体的な要素を活用した独自のストレスマネジメント教育プログラムを開発・普及させた。この教育法は、学校や職場など、様々な場面で活用された。

大学での教育・研究活動に加え、社会的な活動も非常に精力的に行った。1988年には、権威ある（財）日本臨床心理士資格認定協会による臨床心理士資格を取得し、専門家としての地歩を固めた。九州大学の附属機関や文部省の事業にも携わり、中でも1995年から2005年までの10年間は、文部省のスクールカウンセラー事業において、学校現場での児童生徒の心のケアに貢献した。スポーツ分野における貢献も顕著で、鹿児島県体育協会、全日本アマチュア野球連盟、そして日本オリンピック委員会（JOC）の強化スタッフとして、多くのトップアスリートの心理支援を行った。特に、2000年のシドニーオリンピックには野球チームのスポーツカウンセラーとして帯同し、国際舞台での選手たちのメンタルサポートに貢献した。学会活動においてもリーダーシップを発揮し、日本ストレスマネジメント学会では初代理事長を務め、同学会の発展に大きく貢献したほか、日本臨床動作学会の理事、日本心理学会の評議員など、主要な心理学関連学会で要職を歴任した。また、ストレスマネジメント教育臨床研究会の代表として、この分野の研究者や実践家の交流と発展を促進した。

彼の研究成果や豊富な実践経験は、複数の著作として結実している。『動作とイメージによるストレスマネジメント教育』と題された一連の著作は、彼が開発した教育手法のエッセンスを伝える代表作であり、多くの教育者や臨床家に影響を与えた。また、絵本形式で子ども向けにストレスマネジメントを解説した著作も出版している。晩年、自身の壮絶な病との闘いを心理学者の視点から赤裸々に綴った『ある臨床心理学者の自己治癒的がん体験記』を出版。これは、自己の病と向き合い、心理的な回復力を探求した貴重な記録であり、多くの読者に生きる勇気と示唆を与えた。さらに、学校や一般向けのストレスマネジメント教育に関する映像教材の監修も行い、専門知識の普及に努めた。

山中寛氏は、教育者、研究者、臨床心理士として、日本の心理学、特に臨床心理学、スポーツ心理学、ストレスマネジメント教育の分野に多大な貢献をした。彼の開発した実践的な手法や、自らの経験に基づいたメッセージは、今なお多くの人々に影響を与えている。2016年3月22日、61歳で逝去したが、その業績と精神は、彼が育成した後進や著作を通して受け継がれている。

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