山内志朗

山内志朗：多様な知の探求者

山内志朗氏は、1957年山形県生まれの哲学者であり、慶應義塾大学文学部名誉教授、慶應義塾女子高等学校元校長を務めた人物です。専門は中世哲学と広く認識されていますが、自身はライプニッツ研究からの出発を語り、近世哲学への関心の深さ、そして中世哲学専門家ではないという謙虚な姿勢を示しています。

その研究領域は非常に多岐に渡り、スコラ学を基盤としながらも、グノーシス主義、現代思想、現代社会論、コミュニケーション論、身体論、ミイラ、そして出身地である山形の修験道といった、一見関連性の薄いテーマにも積極的に取り組んでいます。さらに、サブカルチャーへの造詣も深く、多様な視点から哲学を考察するユニークな学者と言えるでしょう。

学歴とキャリア

山内氏は、山形県立山形東高等学校卒業後、東京大学文学部を卒業、同大学院人文科学研究科修士課程を修了しました。東京大学博士課程単位取得満期退学後、新潟大学人文学部助手、助教授、教授を経て、2007年に慶應義塾大学文学部教授に就任。2023年3月に退職し、名誉教授となりました。

研究と著作

山内氏の研究は、中世哲学、特にスコラ学を土台としながら、近世哲学、現代思想へと広がりを見せます。ライプニッツを専攻した学生時代の経験が、その幅広い知的好奇心と多角的な思考方法の礎となっていることは容易に想像できます。

その著作は単著、共編著、翻訳と多岐に渡り、いずれも高い評価を得ています。主な著作には、『近代の源流としての普遍論争』『天使の記号学』『ライプニッツ　なぜ私は世界にひとりしかいないのか』『存在の一義性を求めて　ドゥンス・スコトゥスと13世紀の〈知〉の革命』『湯殿山の哲学　修験と花と存在と』『中世哲学入門―存在の海をめぐる思想史』などがあります。これらの著作を通して、山内氏は難解な哲学的概念を平易な言葉で解説し、現代社会における哲学の意義を問いかけています。

特に注目すべきは、中世哲学と現代思想を繋ぎ合わせる試みです。例えば、『「誤読」の哲学　ドゥルーズ、フーコーから中世哲学へ』では、現代思想家のドゥルーズやフーコーの思想を手がかりに、中世哲学への新たな解釈を試みています。これは、山内氏の学問的特徴を象徴するものであり、既存の枠にとらわれず、自由に知の探求を続ける姿勢を示しています。

また、山内氏の著作には、ユーモアや親しみやすさが感じられるものも多く見られます。『笑いと哲学の微妙な関係 25のコメディーと古典朗読つき哲学饗宴』や『〈畳長さ〉が大切です』などは、その一例と言えるでしょう。これは、哲学を専門家だけのものとして捉えるのではなく、より多くの人々に親しみやすいものとして提示しようとする氏の姿勢を表しています。

まとめ

山内志朗氏は、中世哲学を専門とする一方で、ライプニッツ、現代思想、そして修験道やサブカルチャーにまで及ぶ幅広い知見を有する、稀有な哲学者です。その多様な研究活動と、一般読者にも分かりやすい著作の数々は、哲学への理解を深めるだけでなく、現代社会を多角的に考察するための新たな視点を提供してくれるでしょう。今後も、氏のさらなる知的な冒険に期待したいところです。

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