山家踊り

山家踊り（やまがおどり）

大分県杵築市山香町、同大田、および豊後高田市田染の一部地区に伝わる伝統的な盆踊りです。太鼓のみを伴奏とするシンプルな踊りですが、その歴史は古く、多くの踊りの種類を持つことが特徴です。娯楽としての側面を持ちながらも、供養踊りとしての性格を色濃く残しています。

概要

山家踊りは、櫓の周りを時計回りに進む輪踊りです。通常、櫓の上で音頭取りが唄い、太鼓は櫓の下に置かれます。音頭取りは適宜交代し、その際には「つなぎ文句」と呼ばれる口説きによって、唄が途切れることなく交代します。太鼓を叩く人も自由に交代し、子供からお年寄りまで幅広い年齢層が参加します。

踊りの切り替えも特徴的で、「切り替えの文句」によって、唄が途切れることなく次の踊りに移行します。例えば中山香地区では、「この口限り」という文句で切り替わることが一般的です。踊り手は、切り替えの文句によって次の踊りを意識し、一斉に身振り手振りを変えて踊ります。

初盆供養の踊りでは、広場の隅に白い布をかけた台が設けられ、故人の遺影や供え物、位牌などが置かれます。蝋燭に火が灯され、近隣の人が線香を上げてお参りした後、旦那寺の住職が読経を行います。その後、賑やかな盆踊りが始まり、休憩を挟んで約2時間踊り続けます。踊りの途中には、団扇に書かれた番号による抽選会やプレゼント交換が行われ、子供が多い場所では手持ち花火を楽しむこともあります。

伝承状況

山家踊りは、夏祭りのメインプログラムとしてだけでなく、初盆供養、地蔵盆、観音様の祭りなど、さまざまな機会に集落ごとに踊られています。特に8月13日から16日にかけては、各地から盆踊り唄が聞こえてきます。

高齢者だけでなく、若者にも親しまれており、踊りだけでなく太鼓も叩ける子供も多くいます。小学校や中学校の運動会、敬老会、芸能発表会など、地域社会に深く根付いています。山香町中地区の各集落を中心に「山香盆踊り保存会」が活動しており、近年盆踊りが復活した地域もあります。しかし、山香町山浦地区など、保存会が関わっていない地域もあり、周辺部の盆踊りの伝承が危ぶまれています。

踊りの種類

山家踊りは、踊りの種類が非常に多いのが特徴で、同じ名称の踊りでも地域によって大きく異なることがあります。以下に地域ごとの踊りの詳細を記載します。

杵築市山香町 中地区
段物：三つ拍子、二つ拍子、さえもん、豊前踊り、セーロ
切口説：猿丸太夫
山家踊りの中でもテンポが速い地域です。猿丸太夫は現在は踊られていません。

杵築市山香町 上地区（南畑除く）
段物：二つ拍子、レソ、三つ拍子、蹴出し、マッカセ
マッカセは、踊られない集落もあります。

杵築市山香町 上地区（南畑）
段物：三つ拍子、四つ拍子、マッカセ、ヤンソレ、蹴出し
南畑の踊りは、宇佐市安心院町や別府市天間のものに近く、庭入り行事を伴います。市の無形文化財に指定されています。

杵築市山香町 東地区
段物：三つ拍子、二つ拍子、さえもん、豊前踊り、セーロ、六調子、粟踏み
切口説：一つなあえ
六調子、粟踏み、一つなあえは昭和30年頃まで踊られていましたが、現在は踊られていません。

杵築市立石地区（向野を除く）
段物：三つ拍子、二つ拍子、レソ、豊前踊り、セーロ、三勝
三勝は昭和30年頃まで踊られていましたが、現在は踊られていません。

杵築市立石地区（向野）
段物：レソ、マッカセ、二つ拍子、唐芋踊り
切口説：らんきょう坊主
らんきょう坊主は向野にしか残っておらず、唐芋踊りは昭和30年頃まで踊られていましたが、現在は踊られていません。

杵築市山浦地区
段物：レソ、マッカセ、三つ拍子、二つ拍子、蹴出し
向野や山浦の踊りは、宇佐地方のものに近く、他の地区のものとは大きく異なります。

豊後高田市 田染地区
段物：レソ、二つ拍子、六調子（杵築踊り）、豊前踊り、セーロ
セーロと豊前踊りは一部の集落にしか伝わっていません。

杵築市 大田
段物：三つ拍子、二つ拍子、セーロ、さえもん、六調子、豊前踊り、粟踏み
六調子、豊前踊り、粟踏みは一部の集落にしか伝わっていません。

山香口説（やまがくどき）

山家踊りでよく唄われるのが、山香口説です。これは、農村の様子を面白おかしく唄いこみ、山香の自慢も含まれています。比較的短く覚えやすいため、広く知られており、近隣地域でも唄われることがあります。

山香口説の歌詞

よんべ山香の踊り子見たら　おうこかたげて鎌腰ゅ差いて

踊る片手じゃ稗餅ゅこぶる　こぶる稗餅ゃぼろぼろあゆる

あゆる稗餅ゃいやりが運ぶ　運ぶいやりこ達者ないやり

色は黒うてもいやりのようにゃ　いつも働くよい妻欲しや

嫁を貰うなら山香の娘　色は黒いが立派なものよ

親にゃ孝行夫にゃ貞女　隣近所の付き合い上手

家畜飼うのが大変好きで　仕事間にゃ牛飼いまする

それで今では山香の牛は　世間評判のこりゃ牛となる

嫁を貰うなら山香の娘　家畜飼うなら山香の牛を

※よんべ = 昨夜、おうこ = 担い棒、かたげて = かついで、稗餅 = 稗を搗いた餅、こぶる = かじる、あゆる = （ついていた物がそこから離れて）落ちる、いやり = 屋内に侵入する蟻、いやりこ = 「こ」は強意の接尾辞

山香口説は、段物の唄であればどんな唄にも乗せて唄うことができます。以下にその例を示します。

三つ拍子（山香口説）
> よんべ山香の踊り子見たら　（オイサオイサ）
> ヨイカナ　踊り子見たら　（ヤーレサッサードッコイショ）
> おうこかたげて鎌腰ゅ差いて　（オイサオイサ）
> ヨイカナ　鎌腰ゅ差いて　（ヤーレサッサードッコイショ）

セーロ（山香口説）
> よんべ　（セーロ）　山香の踊り子見たら　（ヤッテンセーロ）
> おうこ　（セーロ）　かたげて鎌腰ゅ差いて　（ヤッテンセーロ）

粟踏み（山香口説）
> アラ山香の踊り子見たら　（アラサイ　コラサイ）
> アラかたげて鎌腰ゅ差いて　（アラヤーンソーレ　ヤンソレサイ）
> アラ片手じゃ稗餅ゅこぶる　（アラサイ　コラサイ）
> アラ稗餅ゃぼろぼろあゆる　（アラヤーンソーレ　ヤンソレサイ）

レソ（山香口説）
> よんべ山香の踊り子見たら　コラサノサ　（アーヨイショヨイショ）
> ドッコイサデ　踊り子見たら　（ヤレソーヤレソーヤートヤンソレサー）
> おうこかたげて鎌腰ゅ差いて　コラサノサ　（アーヨイショヨイショ）
> ドッコイサデ　鎌腰ゅ差いて　（ヤレソーヤレソーヤートヤンソレサー）

豊前踊り（山香口説）
> よんべ山香の踊り子見たら
> イヤサソウカナ　踊りを見たら　（アラヨーイサッサノドッコイショ）
> おうこかたげて鎌腰ゅ差いて
> イヤサソウカナ　鎌腰ゅ差いて　（アラヨーイサッサノドッコイショ）

唐芋踊り（山香口説）
> よんべ山香の踊り子　（ヨーイヨイヤナ）　踊り子見たら　（サノサイ）
> おうこかたげて鎌腰ゅ　（ヨーイヨイヤナ）　鎌腰ゅ差いて　（サノサイ）

関連項目

大分県の盆踊り
鶴崎踊
樋山路盆踊り
姫島盆踊り
杵築盆踊り
草地踊り

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