山崎正董

山崎正董

山崎正董（やまさき まさただ、1872年6月16日 - 1950年5月29日）は、日本の医師（産婦人科医）であり、教育者、歴史家としても知られています。熊本医科大学の学長を務めたほか、晩年は歴史研究や旅行に情熱を注ぎました。特に沖縄への深い関心は、写真集として結実し、当時の貴重な風景を今に伝えています。

生涯

山崎正董は、1872年、現在の高知県高岡郡佐川町に生まれました。幼少期から文学に興味を持ちましたが、医家の家系であったため医師の道に進みました。

1890年に第三高等学校、1892年に第一高等学校へと進学し、1900年に東京帝国大学を卒業。卒業後は産婦人科医としてキャリアをスタートさせ、1901年には私立熊本医学校の教授に就任しました。1909年にはドイツのミュンヘン大学、ボン大学で産婦人科を研究し、翌年帰国。1911年には私立熊本産婆学校を設立し校長を務めました。

1916年には愛知県立医学専門学校校長、1920年には愛知県立愛知医科大学長、教授を兼任するなど、教育者としても高い能力を発揮しました。1925年には熊本医科大学長、付属病院長に就任し、大学の発展に尽力しました。1932年に大学長、病院長を退任し、同学名誉教授となりました。

大学長退任後は、かねてからの念願であった歴史研究と旅行に没頭します。特に沖縄への関心は深く、1932年と1933年に奄美大島、沖縄を旅行。その際に撮影された写真が後に発見され、写真集『懐かしき沖縄　～山崎正董らが歩いた昭和初期の原風景』として出版されました。

1938年には、歴史研究の成果として『横井小楠（伝記、遺稿編）』を出版。また、1946年には進駐軍に住宅を接収され、書庫に住むという苦難も経験しました。1950年5月29日、79歳でその生涯を閉じました。墓所は熊本市小峰墓地にあります。

肥後医育史

山崎正董は、歴史研究にも力を注ぎ、特に『肥後医育史』は、正史746ページ、補遺132ページに及ぶ大著です。この書は、肥後（現在の熊本県）の医学教育の250年にわたる歴史を詳細に記述したもので、その医学史的価値は非常に高いと評価されています。

東京大学名誉教授の土肥博士は、この書を「一地方の医学史に過ぎないが、実は側面から観た近世日本医学史たる貴い価値が認められる」と絶賛し、山崎の精力と情熱を称えました。

また、本書には「辻便所と肥後の医育」という興味深いエピソードも紹介されています。これは、明治初期に熊本県で辻便所の設置が提案された際のエピソードで、当時の医療事情や社会状況を垣間見ることができます。

横井小楠

2009年には、横井小楠の生誕200年を記念して、山崎正董の業績が見直されました。山崎は横井小楠の伝記を著しており、その研究が再評価されたのです。

沖縄旅行

山崎正董は、熊本大学学長としての多忙な日々から解放され、かねてからの夢であった旅行を始めます。特に沖縄への旅は、彼にとって特別なものでした。1932年と1933年の二度にわたる旅行では、多くの写真を撮影しました。同行者には、妻、三男の正忠、九州日日新聞の津留カメラマン、画家宮崎東里夫妻などがいました。これらの写真は、当時の沖縄の風景を捉えた貴重な資料となっています。

写真の発見には、沖縄の写真研究家である野々村孝男氏の尽力がありました。長年行方不明となっていた写真が発見され、写真集として出版されたことは、山崎の功績を再評価する上で大きな出来事でした。

また、1933年に沖縄で発見された「ロゼッタストーン」と呼ばれる線刻石版も、山崎正董と沖縄研究者の島袋源一郎によって最初に発見されたとされています。

人物像

山崎正董は、教育者としては厳格な一面を持っていました。生徒に対しては、間違ったことをする学生には体罰も辞さないという方針を持っていました。また、生徒の行動をよく観察しており、街を歩く学生の様子を見て評価していたと言われています。

一方で、研究者としては、その厳しさから後輩の教授たちからは煙たがられることもあったようです。

記念施設

山崎正董の功績を称え、熊本大学医学部構内には山崎記念館と銅像が建てられています。また、彼の収集した古瓦のコレクションは、熊本市立博物館に所蔵されています。墓所は熊本市黒髪の小峯墓地にあります。

山崎正董は、医師、教育者、歴史家として多岐にわたる分野で活躍し、その功績は今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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